冷静に内容を精査した上で、安定的な財源はやはり法人税を主体にして求めるべきです。
安倍内閣では「日本を企業が最も活躍しやすい国にする」として法人税を軽減してきましたが、これが賃上げや設備投資に回ることはほとんどなく、企業の地方移転も進まず、名だたる大企業が莫大な利益を上げながら法人税を減免され、内部留保が積み上がった、というのがその後の現実でした。
税は「誰が受益者か、誰が負担する能力を持っているのか」を考慮して決せられなければなりません。
国の独立と平和が守られることの第一義的な受益者は今を生きる我々ですが、将来の国民にも効果は及ぶものであり、税の応能負担は、憲法の要請する公平の思想に沿ったものです。その点から、利益を上げ、円安の恩恵を享受している輸出中心の大企業などに負担を求めることは妥当なものと考えます。「企業の賃上げや設備投資の意欲を削ぐものだ」との意見もありましたが、昨日の税調で宮沢会長が「自分が経産相当時、法人減税を実現させたが、賃上げも設備投資もほとんど進まず、大きく失望した」と述べられていたのは誠に示唆的でした。
復興税はこれを防衛費の財源として流用するのではなく、あくまで所得税から求めるという構成ですが、復興に遅滞が生じないことと、復興税自体は税率の引き下げと実施期間の延長がセットになっていることを丁寧に説明すべきです。
たばこ税は「反発が少なく取りやすいところから取る」との考えによるもので、税の負担の公平性からは疑問なしとしません。たばこ税は国税と地方税を合わせて2兆円という大きな財源ですが、このかなりの部分が旧国鉄や国有林野事業の負債の返済に充てられているのも同様です。
先ほどの自民党総務会において、新たな防衛力整備の方針が了承されました。昨日までの熱気が嘘のように、マスコミの注目もなく、何の異論もない静かな光景でしたが、「日本に対する脅威の本質とは何か」「反撃力とはいかなる抑止力か」「その発動はいかにして行われるか」「そのために本当に有効な兵器は何か」「日米同盟の拡大抑止力を強化するために共同の司令部が必要ではないか」「より対等な日米同盟のためには地位協定の改定が必要ではないか」等々の論点は積み残されたままです。引き続き感情論によらない精緻かつ早急な議論が必要です。「まずは外交努力を」という意見は確かにその通りですが、パスカルが語ったとされる「正義なき力は暴圧であり、力なき正義は無効である」というのも一面確かな真実です。
今週は「第三次世界大戦はもう始まっている」(エマニュエル・トッド著・文春文庫)から多くの示唆を受けました。トッド氏の人口減少に対する危機感や、独立主権国家の在り方についてはかねてより共感しております。
年末年始には時間を見つけて「戦争はいかにして終結したか」(千々和泰明著・中公新書・2021年)、「ウクライナ戦争」(小泉悠著・ちくま新書・新刊)、「日本の近現代史述講歴史をつくるもの上・下」(坂野潤治他著・中央公論新社・2006年)、「統一教会何が問題なのか」(文藝春秋編・文春新書・新刊)などを読みたいと思っています。
計画はいつも気宇壮大なのですが、あまり実現したためしはありません。夏休みに膨大な本を読む計画が挫折した受験生を描いた柏原兵蔵の「短い夏」の最後の一節をいつも思い出します。夭逝した芥川賞作家・柏原兵三(1933~1972)。「短い夏」の姉妹作「夏休みの絵」や芥川賞受賞作「徳山道助の帰郷」、「独身者の憂鬱」などはとても好きな作品でした。
今週の都心は寒い日が続きました。今年もあと二週間余り、皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。
編集部より:この記事は、衆議院議員の石破茂氏(鳥取1区、自由民主党)のオフィシャルブログ 2022年12月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は『石破茂オフィシャルブログ』をご覧ください。