今回、フランシスコ教皇のロシア軍内の少数派民族出身の兵士の残虐性発言を受け、モスクワは異常と思えるほどすばやく抗議したわけだ。チェチェン人の戦場での残虐性はフランシスコ教皇だけではなく、欧米軍事エキスパートが一致している見解で、教皇独自の批判ではないが、モスクワはフランシスコ教皇の日頃のウクライナ支援、連帯への不満もあって、「教皇の発言は非キリスト教的だ。少数民族への偏見がある」と厳しく非難したわけだ。

ところで、バチカンはロシアに対しては謝罪を強いられたが、中国共産党政権に対しては、2018年のバチカンと中国両国の司教任命問題での暫定合意で中国側の違反として、北京政府に謝罪を要求したばかりだ。バチカンは11月26日、中国でバチカンが認めていない司教が任命されたことで、「合意の違反」として、驚きと遺憾の意を表明した。

バチカンは中国共産党政権とは国交を樹立していない。中国外務省は両国関係の正常化の主要条件として、①中国内政への不干渉、②台湾との外交関係断絶、の2点を挙げてきた。中国では1958年以来、聖職者の叙階はローマ教皇ではなく、中国共産党政権と一体化した「中国天主教愛国協会」が行い、国家がそれを承認してきた。それが2018年9月、司教の任命権でバチカンと中国は暫定合意し、バチカン・中国共産党政権は関係正常化に前進といわれてきた。

バチカンは、「司教の任命権はローマ教皇の権限」として、中国共産党政権の官製聖職者組織「愛国協会」任命の司教を拒否してきたが、中国側の強い要請を受けて、愛国協会出身の司教をバチカン側が追認する形で暫定合意した。結局、バチカン側が譲歩したのだ。そのため、暫定合意が報じられると、中国国内の地下教会の聖職者から大きな失望の声が飛び出した。

バチカン側の情報によれば、中国江西省南昌市で11月24日、同省教区補佐司教の「任命式」が行われた。バチカンには事前に報告もなく実施された。バチカンとは異なり、中国共産党政権はこれまでのところバチカン側の謝罪要求を無視している。

バチカン外交は冷戦時代、東西間の調停役を演じ、“外交に強いバチカン”と呼ばれたこともあったが、ここにきてロシアからは謝罪を強いられ、中国共産党政権には謝罪を要求する、といった「謝罪外交」に追われている。「バチカンの本来の外交からは程遠い」という声が聞かれるのは当然かもしれない。

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編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年12月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。