キリスト教会が生まれた直後は神の言葉、イエスの福音だけを口頭で信者たちに伝えてきたが、次第に聖書の話を絵画を通じて表現するようになった。その際、天使が登場し、多くの天使は翼をもって登場した。天上にいる存在だから翼が必要となるという理由からかもしれない。
聖書によると、天使は神の僕であり、神に頌栄を捧げる存在だ。天使には、ミカエル、ガブリエル、ラファエルの3大天使がいる。「天使」といえば愛らしい存在と考えやすいが、残念ながら事実ではない。17世紀の英国詩人・ジョン・ミルトンの「失楽園」(Paradise Lost)の中で記述されているように、天使(ルシファー)は人類始祖を罪に誘っている。すなわち、“堕落した天使”だ。ただし、ここではクリスマスの雰囲気を壊すので“堕落天使”の話はしない。
「神の使い」として創造された天使には翼があるというイメージがあるが、天使にはもともと翼がない。4世紀半ばに入って初めて翼をもつ天使が登場してきた。
独ボン大学キリスト教考古学研究所は紀元前1000年から紀元後1000年の2000年間の269件の、考古学文献や絵画、ミイラなどを研究した。それによると、天使は当初、翼はなかった。翼をもつ天使が初めて文献や絵画に登場したのは紀元後4世紀半ばに入ってからだ。“神の使者”天使は短い服を着、小さな棒をもった男性として描かれてきたが、ローマ神話の“勝利の女神ヴィクトーリア”(翼をもつ)のイメージと合流し、翼のある存在として変身していったという。天使は霊的存在だからもともと翼はいらないが、時空を超えた存在であることを強調するため翼を付けて描かれ始め、時間の経過と共に今日の“天使像”となっていったのだろう(「『天使』には、本来翼がなかった」2014年12月19日参考)。
当方は数多い天使の中でもラファエル(Raphael)が好きだ。その意味は「神は癒される」で、病人の保護者(パトロン)だ。独仏共同出資のテレビ局「アルテ」で「天使への信仰」について1時間あまりの番組があったが、その番組の最後でナレーターは「天使が生まれてきたのは、神と人間だけしかいなければ、人間が孤独を感じるからではないか」と述べていた。ひょっとしたら、神は人間が孤独に悩まされないように天と地を行き来する天使のような存在を創造したのかもしれない。
2022年はまもなく過ぎていく。コロナ感染問題、ウクライナ戦争、物価高騰、エネルギー危機など多くの難問が飛び出してきた1年だった。神を信じる人々の中には、困窮化にある人間社会に救いの手を指し伸ばさないと「神の不在」を嘆くが、善なる「天使の不在」も問われるべきかもしれない。神も天使も不在の世界は暗闇が支配し、孤独が至る所で渦を巻いているのではないか。

ウィーン市庁舎のクリスマスマーケット pressdigital/iStock
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年12月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。