英国の欧州連合(EU)離脱日は2019年3月29日の予定だが、2019年1月17日時点で、Brexitは見通しがはっきりしていない。ユンケル欧州委員長は「もうすぐ時間切れだ。英国はどうするつもりなのか、大至急明確にするよう要請する」との声明を発表。合意なき離脱にともなう危険性が高まったことに警鐘を鳴らしている。「合意なき離脱」の現実味が依然として残る中、どのような日本経済への影響が懸念されるのか。
Brexitの現状と3つのシナリオ
英国政府とEUが合意に至った離脱協定案は2019年1月15日、英国議会過去最多となる230票差で下院により否決された。労働党の要請で翌日行われた内閣不信任決議案は否決されたものの、その差はわずか19票。離脱協定案だけではなく、メイ政権の存続をめぐる、大きな亀裂を象徴する結果となった。
メイ政権は1月21日、代替案として「プランB」を示す必要に迫られているが、苦戦は続くものと予想される。「今後最も起こり得る」と想定されるシナリオは以下の3 つだ。
1 合意なきまま3月29日に離脱
2 「プランB」を元にEUと再交渉
3 離脱日の延期をEUに申請し、その間に軌道修正を図る
「2度目の国民投票の実施」「Brexitの取りやめ」といった意見も残留派を中心に聞かれるが、メイ政権はこれらを「民主主義に反する行為」として頑なに拒絶している。
「合意なき離脱」が英経済にあたえる影響
1月10日に行われたメイ首相との会談後 、安倍晋三首相はメイ首相の離脱協定案への支持を表明 。自由貿易体制の維持も含め、新たな経済関係の構築を目指す方針で一致した。
安倍首相が「ぜひ回避してほしい」とする合意なき離脱が現実となれば、物流や生産が停滞し、CBI(英国産業連盟)のキャロライン・フェアバーン事務局長の予想によると、「英国のGDP(国内総生産)は最大8%縮小する」 。
英国に拠点を置く日本企業の数は2017年9月の時点で1000社を超えてい たが、ネガティブな影響がないとは想像し難い。
Brexitが日本経済にあたえる影響
1 貿易へのマイナス影響
離脱協定なしで離脱日を迎えた場合、「EU域内の貿易に関税がかからない」という特権を英国は失う。関税手続きが復活すれば、部品や食料品を含む物質不足も懸念される。結果として英国内で製品を生産あるいは英国経由でEU諸国に輸出している企業や国民に、大きな混乱をきたす可能性が高い。
英政府は解決策として、関税同盟と単一市場に参加しているアイルランドと英領北アイルランドの国境開放を維持することを協定案に盛り込んだが、前述した通り、この案は議会の承認を得れなかった。
英国に拠点を置く日本企業間で警戒感が消えないのも無理はない。例えばトヨタや日産、ホンダの3社は 2017年に英国内で合計約80万台の車を製造し、トヨタと日産はそのうち各80%、ホンダは30%をEU域へ輸出した。しかし合意なき離脱となった場合、部品在庫を最小限に抑えているトヨタの英工場は「数週間~数カ月にわたり生産が滞る」 との懸念を明らかにしている。こうした動きが「日本企業の業績にマイナス影響をあたえない」とは予想し難い。
2 ビジネス環境の変化に伴うマイナス影響
「金融都市ロンドン」を拠点とする金融機関も、続々と動き出している。離脱後もEU域で事業を続けるためには、英国以外のEU域でライセンスが必要となる。三井住友銀行や野村ホールディングス などは、新たな中核拠点としてフランクフルトに現地法人を設置した。
このようにビジネス環境が一転することで、それに伴う影響も懸念されている。EU共通の規制に基づいて構築されたビジネスシステムが、離脱後は「EUはEU、英国は英国」と分岐する可能性が考えられる。
「合意なき離脱」という最悪のシナリオに備えて準備を進めてきた日本企業も少なくないだろうが、ビジネスの利便性や人材・リソースの確保など、様々な面で深刻な影響が予想される。
3「円高」が日本の景気を悪化させる可能性
2016年6月の国民投票以来、ポンドは復活していない。「合意なき離脱」は英経済だけではなく、EU全経済にマイナス影響をおよぼすという懸念から、ポンド、ユーロが急落する可能性も否めない。
そこで「欧州市場への不安が円高を進ませる」というシナリオが想定される。円の価値が益々高くなる=日本の商品やサービスが国外市場で敬遠され、国内の輸出業にダメージをあたえる。長期的な円高が続くと、日本の景気を悪化させかねない。
文・アレン・琴子(英国在住のフリーライター)
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