筆者も超多忙に
女王の死で、筆者も忙しくなった。特に王室の専門家というわけではないのだが、これまでに王室についての原稿をいくつも書いている。ラジオやテレビ(ズーム)への出演、原稿依頼が殺到したことに加え、毎朝、複数の新聞を買う作業も忙しくなった理由の一つだった。
英国の日刊紙は原則朝刊のみの発行だ。論調の異なる新聞を数紙買うとすると、大型スーパーに行ってそろえなければならない。女王の死という特別な事情の下、朝も少し遅い時間になると目当ての新聞が売り切れてしまう。数紙を大きなバッグに入れると結構重いので、バスを使うと、「必要な新聞を買う」だけで、往復2時間ほどかかる場合もあった。
日本から新聞購買の依頼があったこともあって、自分の用途以外の複数の新聞のセットをそろえることが日課となり、これが相当の時間をとることになった。新聞を自分で買いに行く時間がなくなり、家族に買いに行ってもらうこともあったが、別の新聞を買ってしまうなどの失敗もあった。
また、「通りで何が起きているか」を伝える必要があり、ロンドン市内のあちこちにも足を運び、時には動画を撮影した。
新聞を買い、テレビを見、ラジオを聞き、通りを歩き、動画をテレビ局などに送り、ラジオ・テレビの番組に出演する一方で、英国に住む一人として、後述する「棺の接見の列」に加わろうとしたのだが、一通り仕事の山が終わった頃には、列に並ぶ時間が24時間ほどになっており、断念せざるを得なくなった。
後で振り返ってみると、「一生に一度」の体験だったように思う。

ハイドパークの大型スクリーンで棺の移動儀式を見る人々(筆者撮影)

ハイドパークの追悼の花(撮影筆者)
女王の遺体は棺に納められ、スコットランド・エディンバラで一般公開された後、9月14日夕方からロンドンのウェストミンスターホールでも一般公開が始まった。
ホールに入るための行列が長く続き、当初は数時間で中に入れたものの、一時は30時間を超えた。
女王に対する愛情と尊敬に加え、英国にとって歴史的なこの瞬間に自分も参加したいという思いがあったのだろう。
安置された女王の棺の前を通り過ぎる弔問の様子をBBCが24時間放送し続けた。

弔問を終えて、外に出てきた家族(筆者撮影)
今になって思うと、女王が亡くなった日から19日の国葬までの期間は、英国民にとって、そして筆者にとっても、君主の死を受け入れるための「長いお別れ」だったように思う。
生前の女王の人生を振り返るテレビ番組を見て、連日特集を組む新聞を買う日々を過ごしながら、別れを告げ、心の整理をするという貴重な体験をした。

ミサが行われた教会に置かれていた花束(筆者撮影)
(日本新聞協会が発行する「新聞研究」11月号に掲載された、筆者の記事に補足しました。)
編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2022年12月6日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。