しかし、ひっそりと見たい人に売るような行為まで処罰するのは行きすぎだろう。

売る側も買う側もひっそりと売買をすればいいし、買った側もひっそりと見ている分には 誰の権利も侵害しない。

このように、ひっそりと頒布する行為を合法化すれば、「何がわいせつか?」という不毛な議論がなくなる。 「芸術性が高いからわいせつではない」「陰部が見えているからわいせつだ」などという不毛な議論がなくなれば、警察がわいせつDVD販売業者宅を捜索する必要もなくなる。

貴重な警察のマンパワーを他の犯罪抑止や捜査に回すことができる。

対立利益を考える上で、昨今重要になっているのがプライバシーと社会防衛の調整だ。

現代社会では街中に防犯カメラが設置されており、私たちは常に防犯カメラに晒されていると言っても過言ではない。

しかし、防犯カメラが多数設置されることによって、犯罪の抑止と犯人の早期検挙が図られている。

とりわけ犯人検挙のためのシステムは驚くほど進んでいるようで、逃げ切るのは極めて困難になっているそうだ。

また、私たちは公の場所や他社の建物に入るような時には、自室にいるときと違って他人の目に晒されることを事前に覚悟している。

しかし、自室では他人の目に晒されることは想定外なので、プライバシーが尊重されなければならない。

「ソト」ではプライバシーより社会的安全が優先し、「ウチ」ではプライバシーが優先するという線引きが妥当だ。

余談ながら、Facebookのどこに「いいね」をタップしたかをAIが解析すると、その人の政治的信条や心理状況等がわかるといわれている。

プライバシーとの関係で大きな問題だ。

対立利益を考える上で、忘れてはならないのは同性愛者が比較的最近まで処罰されていたという事実だ。

同性愛者は誰の権利も侵害していない(つまり対立利益が存在しない)。

英国では、イングランドとウエールズから同性愛者処罰が禁止され、北アイルランドでは1982年に至ってようやく同性愛処罰が禁じられた。

「国家は国民の食卓の上には干渉しないのに、ベッドの上には干渉するのか」(何を食べるかは自由なのに、ベッドでの行為には干渉するという意味)

ジョン・スチュアート・ミルの言葉だと記憶しているが、誰の利益も侵害しない行為を処罰うするような愚行を決して繰り返してはならない。

編集部より:この記事は弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2022年12月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。