一定の利益や権利を尊重すると損なわれる利益や権利を「対立利益」と言う。

例えば、殺人行為の対立利益は「人の生命」だし、窃盗行為の対立利益は「財物」だ。 刑法上は「保護法益」と言われる。

刑事罰では、対立利益の存在が疑わしいものがある。

典型的なものは、わいせつ物頒布罪だ。

わいせつ物頒布を禁止する目的を、「健全な性秩序」や「性道徳」「風俗」などの維持とするのが判例だが、これは大いに疑問だ。

最高裁判所 裁判所HPより (イメージ 編集部)

なぜなら、「性秩序」や「性道徳」「風俗」などという概念は曖昧で、国家権力によっていかようにでも解釈できる。

明確な基準がないのに処罰するのは「罪刑法定主義」に反する。

また、「秩序」や「道徳」は各人各様によって異なるものだ。

あなたにとっての「秩序」や「道徳」が、私のそれと完全に一致することはあり得ない。

よって、わいせつ物頒布の対立利益は「見たくない人の権利」と考えるのが明確であり妥当だ。

「見たくない人の権利」を乱すような方法でのわいせつ物の頒布は、禁止されてもやむを得ない。

多くの人々が行き交う街中で大々的にわいせつ物を売れば、「見たくない人」の目に否応なく飛び込んできて、不快感を与える恐れがあるからだ。