6人連続で経済人が会長になるからといって、NHK会長のなり手を探すのは容易ではありません。稲葉氏も望んで会長就任を承諾したとは思えません。また、経営委員会が決めること(放送法)になっています。実際は、「岸田首相が水面下で接触して口説きおとした」(読売新聞)とあります。そうでもしないと決まらない。

「報道に対して世間の批判にさらされる」「政権、自民党からは政治的圧力をかけられる」「NHK内部からは離反される」などで、会長候補に名があがった財界、経済人は多くが逃げ回ったことでしょう。名誉職としてもステータスが高かった時期は終わっています。

放送法には「不偏不党、政治的公平、放送による自由の確保、多くの角度からの報道」などがうたわれています。実際は、報道される側(政権)が報道機関のトップを決めたというおかしさがあります。本来はジャーナリズムで生きてきた生え抜トップになるのが好ましい。

ジャーナリズムを体現し、経営も分かり、政権側がその人物なら認めざるをえないという内部人材が育っていない。そんなことでは、今後も外部からの登用が続く。稲葉氏には、生え抜きを選び、将来のトップに育てていく任務もあるように思います。

「安倍元首相の銃撃事件、旧統一教会を巡る報道は公正さを欠く」という批判が政権・自民党には強いようです。世論調査などでみる視聴者の思いとは逆です。

稲葉氏は「多角的な視点を好み、上司はや部下、取材する記者との激論もいとわないタイプだ」(朝日新聞)といいます。そうした現役時代の延長のつもりで、内部に対するガバナンス(統治)を維持し、政治的圧力があってもそれをはねつける姿勢を貫くよう期待します。

編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2022年12月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。