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NHKの経営委員会が日銀元理事の稲葉延雄氏(72)を次期会長に任命(23年1月就任)することを決めました。企業経営者だった外部人材がこれで6人連続で会長に就任するのは異常です。政権側も認めざるをえない内部人材が育っていないとは情けない。
ビール、鉄道、商社、銀行、そして今回は日銀からとなり、いずれもジャーナリズムとは無縁の人物です。中には就任挨拶で「政府が右というものをNHKが左というわけにはいかない」「従軍慰安婦は戦時下には他国にも存在した」と発言して、視聴者を唖然とさせた人物もいました。
1989年から2008年までは、生え抜きの島、川口、海老沢、橋本氏が4代続けて会長職に座りました。出身は報道局系、文化・芸能系、技術系と多様ではあっても「ジャーナリズム精神を持ち、公共放送のあり方を知っている人物が望ましい」というのが正論でしょう。
政治部系の会長には「政界との関係が深く、政権の意向を忖度できる」「NHKの予算を国会で成立させるのに好都合だ」などの理由で、念願の会長になれたという人います。NHKの生え抜きだからといって「ジャーナリズム精神を体現している」とは限らないことは確かです。
英仏独など海外の公共放送のトップはジャーナリスト、ニュース部門のプロデューサー、放送会社役員などからの人たちが多いようです。それに比べて政治の思惑が色濃いNHKのトップ人事は異質です。
新会長になる稲葉氏は、日銀では、金融政策を担当する企画部門の中枢を歩んだエリートで企画担当理事を務め、日銀総裁候補の一人と言われた時期もありました。人物面では、適格であるとの評価でしょう。
日銀の執行部として、アベノミクスの異次元金融緩和を支持、政権に対しても柔軟な姿勢をとる人物なのでしょう。国会対策でもまれ、取材される側としてもジャーナリズムとの接触がありました。今度はジャーナリズムの側に立つことになり、こうした経験は生きることは生きる。