民主党の伝統をぶち壊したトランプ
そのように消極的ではありながらも共和党がトランプを三度大統領候補に祭り上げられる素地ができると、今度は民主党もバイデン支持で行かざるを得ない。
2016年の大統領選での敗北、4年間のトランプ政権は民主党支持者にとって悪夢であった。慣例を度外視して、国内の分断を煽り、挙句の果てには議会襲撃事件を引き起こしたトランプ氏を多くの民主党員は脅威と見なしている。民主党内の反トランプ感情が強すぎるがあまり、2016年には主流派と左派で分断していたが、2020年大統領選の際は民主党は反トランプを旗印にまとまることができた。
一糸乱れぬ統制が乱れ、バイデンに対抗する人物が左派側から出れば、2016年のように棚ぼた的な形でトランプ氏が勝利してしまうリスクがある。そのリスクが存在する限り、民主党は2020年と同様に妥協策としてバイデン支持に動かざるを得ない。
ちなみに候補者の選定で妥協に走るのは民主党の伝統にそぐわない。「民主党は恋に落ち、共和党は行動を共にする(Democrates fall in love. Republicans fall in line)」という政治的な決まり文句がアメリカにはある。「行動を共にする」という表現が示すように共和党員は誰が大統領候補であっても、保守対穏健派の内部対立を乗り越え、最終的に決まった候補で妥協する傾向がある。ジョージ・マケインやミット・ロムニーといった穏健派が共和党大統領候補になりながらも保守派が支持が離れなかったことがその傾向を証明している。
一方、民主党は全く無名の候補であっても、「恋に落ち」てしまい、大統領候補にしてしまう。例を挙げると、ジョン・F・ケネディ、ジミー・カーター、直近ではビル・クリントン、バラク・オバマといった、政治経験が短い人物が民主党の大統領候補に選ばれ、大統領の職を手にする事例はいくつもある。
その伝統を考慮すれば、バイデン氏が「トランプに勝てる」という指標で、党内がまとまり、打算的に2020年の大統領候補に選出されたいう事実は、異例である。同時に、トランプ氏がいかに共和党だけではなく、他党である民主党にも影響を及ぼしているかも分かる。
実際は人材が豊富な両政党
このように、トランプ氏を中心とした政治力学が作用し、2024年大統領選は大半のアメリカ人が望まない候補同士の直接対立となりそうだ。
だが、共和党、民主党共に、有望な人材を多く擁する。共和党内だと、フロリダ州知事のロン・デサンティス、前副大統領のマイク・ペンス、そしてテキサス州選出の上院議員であるテッド・クルーズ。民主党内の場合は、ハリス副大統領、ブディジェッジ運輸長官、さらに大穴ではミシェル・オバマ前大統領夫人が潜在的な大統領候補として取りざたされている。両政党とも、大統領候補となれる人材はごまんといる。
だが、上記でも記したアメリカ政治の硬直化された構造が維持される限り、これらの人材は中々党の新しい顔になれず、アメリカ政界の世代交代はまだまだ先になりそうだ。
文・鎌田 慈央
文・鎌田 慈央/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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