行動制限のコストは効果よりはるかに大きかった
もう一つのポイントは、費用対効果が重要だということである。感染症の社会的コストを示すのは超過死亡(平年に比べて増えた死亡数)だが、2020年は平年より3万人程度少ない過少死亡になった。統計的に有意な超過死亡が出たのは、昨年春の第4波と秋の第5波、今年春の第6波の3回だけである。
このデータからいえるのは、行動制限のコストはその効果よりはるかに大きかったということだ。2020年に過少死亡になった最大の原因は呼吸器系疾患(コロナはその1割程度)が減ったことだが、その最大の原因は病院や介護施設で高齢者の隔離を厳重にしたためだった。
これは寿命の来た高齢者を延命しただけだったので、その「積み残し」で翌年は超過死亡がプラスになった。今年まで2年半の累計の超過死亡は1万人程度で、インフルエンザの死者(年間3000人~1万人)とほとんど変わらない。
ワクチンの効果は統計的に有意ではない ワクチンの効果は、超過死亡でみるかぎり統計的に有意ではない。ベンチマークを2020年の死者数とすると、ワクチンが行き渡った2021年から超過死亡はやや増えている。今年春に最大の死者を記録したことからみると、オミクロンにはワクチンの効果は大きくなかったようだ。
接種の初期には高齢者の重症化を防ぐ効果があったと思われるが、日本では大きくなかった。30歳以下では統計的に有意な超過死亡はなかったので、国民全員に接種するのは無駄である。
日本の死者が少なかった原因として、東アジア特有のファクターXがあったと思われる。その実態は今も不明だが、結果としてコロナは日本ではインフルと同じぐらいの風邪だという私の予測はおおむね正しかったと思う。
それに費やされたコロナ対策のコストは、直接経費だけで100兆円以上だが、行動制限で日本のGDPは2020年に5.8%下がり、今もコロナ前の水準に戻らない。そのコストを含めると、コロナ対策の直接・間接コストはGDPの30%(150兆円)を超えると思われる。
その結果はインフル並みの超過死亡だったので、非常に深刻な感染症の(起こりうる)被害を行動制限とワクチンでインフル並みに抑えたと好意的に解釈しても、平年の新型インフル対策費300億円の3年分を超える99%以上のコストは浪費だった。
尾身氏を初めとする専門家も、ようやく過剰対策を意識し始めたが、厚労省は動かない。まずコロナの1類相当の扱いをやめ、インフルと同じ普通の感染症(5類)に格下げし、この史上最大のバカげた感染症対策を終結するときだ。特に岸田政権の始めた水際対策や濃厚接触者の隔離などの過剰対策は、ただちにやめるべきである。
文・池田 信夫
文・池田 信夫/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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