コロナ分科会の尾身会長など有志7人の専門家が「コロナの全数把握をやめるべきだ」と提言し、感染症学会など4学会が「コロナは普通の風邪だ」という見解を発表して、日本のコロナ対策はそろそろ平常に戻りそうだ。

しかし厚労省は「第7波の中では見直さない」という方針だ。今までも見直しの話が出ては「流行の最中に見直すのは政治的にまずい」という理由で、先送りされてきた。尾身氏などの提案も、4月から出ていたが、厚労省が分科会を開催しなかったという。

コロナは最初からインフルエンザ並みの風邪だった

この問題については、アゴラの主張は2年半前から明確だった。日本のコロナ対策の最初の岐路は2020年4月7日の緊急事態宣言だった。このころ厚労省クラスター対策室の西浦博氏は「何もしないと死者は42万人になる」と記者会見で発表し、その数字をマスコミや政治家に吹き込んだ。

これを受けて安倍首相は4月7日に「東京の感染者が1ヶ月後に累計8万人になる」という予測にもとづいて、緊急事態宣言を出した。それに対して私は「何もしなくても42万人も死ぬことはありえない。8割削減は有害無益だ」と反対した。

5月7日の東京都の累計感染者数は4890人。安倍首相と西浦氏の予測は大幅な過大評価だった。今でも累計の死者は3.3万人(人口の0.03%)と、先進国では群を抜いて少ない。しかし厚労省はこの誤りを総括しないで、その後も一貫して被害を過大評価し、過剰な行動制限を続けた。

感染症対策の指標は重症者数

私が一貫して主張してきた最大のポイントは、感染症対策の指標は感染者数ではなく重症者数だということである。感染者数(検査陽性者数)はPCR検査を増やせば増えるので、統計的には無意味な指標である。医療危機が起こらない必要十分条件は

重症者数≦人工呼吸器数

という不等号が満たされ、医療資源に余剰能力があることだ。これは2020年2月に専門家会議が出した方針である。

コロナ対策のコストの99%は浪費だった
専門家会議の資料より(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

重症者数を客観的にみるのはむずかしいが、比較的信頼できる指標は人口あたり死者数である。これでみると日本のコロナ死者はほぼ一貫して先進国より大幅に低かった。死者が最大だったのは、今年春の第6波(オミクロン)のときだが、ピーク時でも0.0002%とG7で最少だった。

コロナ対策のコストの99%は浪費だった
世界各国の人口10万人あたりの死者数(FT.com)(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

上の不等式が満たされなかったことは、この2年半で1度もない。次の図のように重症者数(人工呼吸の実施件数)は、一貫して人工呼吸器数(受入可能数)を大幅に下回っている。一時的には昨年春の大阪のように人工呼吸器が不足する事態もあったが、全体としては余裕があった。

コロナ対策のコストの99%は浪費だった
全国の人工呼吸器の受入可能数と実施件数(ECMOネット)(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

医療現場で混乱が起こった最大の原因は、医療資源のミスマッチである。これは日本の医療が医師会の強い政治力で歪められ、開業医中心で公立病院が少ない非効率な病院経営が続いているためだ。