判例通説は、「器物を損壊しようとして」結果として「人の死」を招いたということで過失致死罪になるとする。
同じ「人の死」という重大な結果を招いたのに、殺人罪だと「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」になるのに対し、過失致死罪だと「50万円以下の罰金」となる。
これはあまりにもアンバランスのように感じるだろう。
しかし、「人を殺してはいけない」という規範に直面しつつ、敢えて人を殺したという場合は「器物を壊してはいけない」という規範に直面している場合より明らかに重大だ。
誰であろうと「人を殺す」という行為は極めて重大なことであり大抵の人は躊躇する。 逮捕されてニュースになるかも知れないし、長期間刑務所に入れられるかもしれない。
そのようなことを考えれば、「人を殺そう」という意思を持ちつつ実行に移すのは極めて重大だ。
それに対し、狸の置物を壊すつもりだった場合は、「バレたら弁償すればいいや」というくらいの気持ちでやることが多く、重い規範に直面していない。
このような点から考えれば、「人を殺してはならない」という規範に直面しつつ敢えてそれを破ることがいかに重大なことかが理解できる。
人の死という結果を招いた場合、「殺すつもりはなかった」という言い訳が通るだろうか?
「私は確かに相手を傷つけたけど、殺すつもりはなかった」という言い分が通って「身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、3年以上の有期懲役に処する」(傷害致死罪)という殺人罪よりも軽い刑が適用されるだろうか?
この点については、「殺意の認定」ということで刑事事実認定に関する判例の集積がある。
わかりやすい例だと、出刃包丁で人間の四肢でない部分を刺したら原則として「殺意」が認定される。
四肢とは手足のことであり、頭部や胴体部分を出刃包丁で刺せば原則として「殺意あり」とするものだ。
出刃包丁で頭や腹部を突き刺せば、原則として「殺意」を認めることに異論はないだろう。
「殺すつもりはなかった」と弁解するのなら、例外的な事情を説明しないと誰もが納得しない。
以上のように、法的三段論法の大前提は法律の条文、小前提は大前提の「要件」となる事実、結論は大前提の「効果」となる。
編集部より:この記事は弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2022年12月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。