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敵のミサイル発射基地などを攻撃する「反撃能力」の保有を盛り込んだ安保関連3文書を政府が今月中に閣議決定する見込みとなった。与党二党が合意したことを、自民党・小野寺安全保障調査会長と、公明党・濵地雅一外交安全保障調査会事務局長が発表した。

その際、「時代が変わった」といった抽象的な言い方がなされたようだ。世論の動向が変わってきたのを見定めた、という姿勢の政治家の本音なのだろう。だが、変わったのは「時代」とか「世論」とか「空気」とかではない。より具体的な、他国の状況と行動が変わっている。

北朝鮮がミサイル実験を繰り返している。すでに中国のミサイル能力は西太平洋地域においてアメリカを凌駕している。ロシアが冒険主義的行動に出る危険性が上昇している。「冷戦時代のように安保タダ乗りで、アメリカに日本防衛を任せておけないのか」という態度を、日本が取り続けるわけにはいかないのは、自明である。

これに対して共産党は、「憲法違反だ」という主張をしている。SNSなどを見ても、同様の主張が垣間見られる。安全保障政策の話は拒絶し、「憲法違反だ」、の話に持ち込み、いわゆる「護憲派」の固定ファン層にのみ訴えることができればそれでいい、というお馴染みのスタイルである。

だが日本国憲法のどこにも「ミサイルを持ってはいけない」などとは書かれていない。「敵の基地を狙った反撃をしてはいけない」などとも書かれていない。そもそも「世の中には合憲の武器と違憲の武器がある」といった議論を可能にするような規定そのものが、日本国憲法には存在していない。

「憲法違反」を叫ぶ方々は、決して真面目な憲法論をしようとはしない。ただ、「国際政治学者は憲法を語るな!」と叫んで、憲法をめぐる議論を禁止したくて禁止したくてたまらないだけなのが、「護憲派」の方々である。

しかし、残念ながら、「憲法を語る国際政治学者は、禁固刑に処する」といったことを定めた法律は存在していない。大変に恐縮だが、「どんなに破綻した内容でも、憲法学者の語る憲法解釈だけが常に正しく、国際政治学者の憲法学者の憲法解釈はどんなに優れていても否定されなければならない」といったことが書かれた法律も存在していない。

国際法の領域では、特定の武器の使用が、いくつかの具体的な禁止条約で禁止されている。たとえば、化学兵器禁止条約に加入しているのであれば、化学兵器を保持してはいけない。当然である。

国際人道法は、兵器の特定の使用方法を禁止している。たとえば、非戦闘員である民間人の殺戮を狙った兵器の使用は、戦争犯罪である。旧式の小火器を使用した場合でも、違法である。言うまでもなく、これらの特定兵器の使用の禁止と、兵器の特定のやり方での使用の禁止は、今回の「反撃能力」をめぐる議論とは、全く関係がない。