日経ビジネスオンラインに「バルニバービ佐藤会長『飲食業こそ、不動産を取得せよ』」とあります。バルニバービ社は国内で93店舗を展開する飲食業です。その記事にこんなくだりがあります。

「今、私たちは積極的に不動産を取得しています。例えば古いビルの建つ5億円の不動産があったとしたら、建物の価格はせいぜい5000万円程度。土地は減価しませんから会計上の償却はゼロです。家賃と減価償却で経費が20%掛かるところを、自社物件を持つことで4%に抑えられます。内装費に1億円かけたとしても、5000万円の物件で20年営業すれば、月に1000万円の売り上げで純利益を15%出すことができます」と。

文面だけでは断言できないのですが、自社物件なので賃料がゼロだから本業の飲食は儲かるという訳です。残念ながら不動産生業の私からするとこの発想はダメなんです。どんな会社でも自社物件に甘えてはいけないのです。というより経営を誤るのです。純利益15%は見せかけ、つまり下駄をはかせた利益なのにそれが見えなくなるのです。

実は私は主軸に2つの会社を持っています。一つは不動産の所有会社。もう一つは事業運営会社です。事業運営会社が自社で持つ不動産を賃借する場合、もう一つの不動産所有会社との契約に基づき、賃料を払うのです。自社が自社にお金を払うわけですね。それもマーケットバリューです。理由は不動産はおまけではないのです。上記の飲食店の発想だと不動産を踏み台にしたおまけの発想になります。これは不健全なのです。

不動産所有会社は賃料収入が期待できます。一方の事業会社は事業収入のほか、投資を含めたキャッシュマネージメントをしているので不動産所有会社が新規物件取得時の際は社内ローンを提供します。これにより不動産所有会社は利払いを経費として計上して税金を抑え、事業会社はしっかり金利を稼ぐという連携プレーをします。これは不動産と事業の重要な掛け合わせなのです。

日経に「商船三井、不動産に4000億円投資 コンテナ依存から脱却」とあります。記事からすると商船三井の本業とは全く関係のない不動産事業に資金を投じるようです。私は80年代後半のバブル期に日本企業が大挙して海外不動産を取得し、その後、会社の屋台骨を揺るがすような事態になったのを目のあたりにしています。というよりその激しい嵐の真っただ中にいました。なので不動産が安定収入源になると思うべきではないと考えています。

彼らはBS主体で物件の値上がり益期待が大きいのでしょう。が、それは不動産市況が上がれば、という淡い期待が前提です。値上がりするまで何年、あるいは何十年もその不動産と付き合うにはPLがしっかりしないとダメだ、という前提を考えないとバブル期の海外不動産投資の二の舞になると申し上げておきます。

では今日はこのぐらいで。

編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年12月5日の記事より転載させていただきました。