各メディアでは勝因を様々に語っています。たとえば…

森保監督と選手が信頼しあっていること 森保監督のゲームプランがはまったこと スペイン代表にボールを持たれても、先制点を取られても慌てなかったこと 同点ゴールを決めた堂安律が交代最初から全開だったこと その直前の伊東純也の敵キーパーからのボールへの猛プレス AIを使ったレフリングで2点目が認められたこと 追いつかれてスペイン代表が戸惑っている時間帯に2点目を取れたこと 日本サッカーの地道な積み重ね 世界の強豪国のリーグで活躍する選手が増えてきた 特にディフェンダーに世界レベルの選手が増えてきたこと

などなど、いくらでも上がりそうです。おそらく、全て本当だと思われます。

まさに森保監督の言う総合力で勝ち取った勝利と言えるでしょう。

心理学的な真の勝因は「展望力」

ただ、勝利した試合は何をとってみてもハロー効果で素晴らしく見えます。勝ち試合はどの一場面を切り取っても、勝因に見えるくらい輝かしいものです。

宮本武蔵の『五輪書』の精神によれば、次につながる真の勝因を見出さなければ次の勝利はありません。

そこで、ここでは心理学で見えてくる真の勝因を考えてみましょう。心理学的な真の勝因、それは「展望力」です。

実は、展望が人類と他の動物を区別する最大の違いであることはほとんどの心と脳の研究者が同意するところです。ヒトは圧倒的な展望力で生存競争を息抜き、今日の繁栄に至った動物なのです。

さらに展望に関わるVLPFCという人類になってから進化した脳はあらゆる苦痛を軽減してくれます。つまり、展望があれば苦しい時に踏ん張れるのです。がんばれるのです。

「できないこと」ではなく「できること」の展望を描くべし

この試合は圧倒的なボールキープ力を誇るスペイン代表を相手にほとんどボールを持たせてもらえないことが予想されていました。その中で無理にボールを持つ、つなぐ、といったボールの持ち合い勝負を挑むと圧倒的に不利になります。

そこで、守り抜いてスペイン代表の弱点を突いて勝機を見出す展望が全員に共有されていたことでしょう。

また、前節コスタリカ戦ではスペイン代表ほどではありませんでしたが、日本代表のほうが圧倒的にボールをキープして攻め込む展開の中で敗れました。この敗戦がスペースを与えずに粘り強く守り抜く展望に役立ったと考えられます。コスタリカ代表にできて自分たちにできないはずがありません。スペイン代表の破り方は身をもって体験し、選手たちの頭の中にも体全体にも行き渡っていたことでしょう。

試合が行われたハリーファ国際スタジアム Shakeel Sha/iStock