中曽根氏が総理に就任した頃、デスクから中曽根氏の人柄について一本原稿を書いてくれと言われた。真面目な話なら大体、聞き取っていたが、会って話せば新しいネタを得られるかもしれないと、面談を申し入れた。
そこでいきなり「総理の周辺では女性の噂というものが全くありませんね。余程用心しているのですか」と聞いてみた。すると総理はキョトンとして「女性というのは彼女のことか」と尋ねた。そして「仕事の後で食事をする。それを毎晩繰り返して何か役に立つのかね。時間が勿体ない」と言う。こういう人に“彼女”はいない。
また何かの機会に「この本は役に立つよ」と偉い人からもらった書物があった。くれた人は当代一流の人物である。「積ン読」にしては申し訳ないと思ったので、論旨を話して総理に進呈した。2、3日経つと総理から「あれ、どこが面白いの?」と聞かれた。
中曽根氏は、自分の時間は全て国のために使っていた。誠心誠意、国のために尽くした。その思いは、身近にいる人間にも染み渡っていくようだった。こういう生き方をする人は政官人事で失敗などしないのである。
(令和4年11月30日付静岡新聞『論壇』より転載)
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屋山 太郎(ややま たろう) 1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2022年11月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。