この連載ではこれまでに「ハイクリーン」「ハイプル」を紹介してきたが、数あるクイックリフトの中でも最も難しいとされるのが「スナッチ」である。それだけに、マスターすれば様々な恩恵を享受できる種目といえる。最終回となる今回は、その“キング・オブ・クイックリフト”スナッチを解説!
取材:藤本かずまさ 撮影:北岡一浩 取材協力:BLACK SHIPS
スナッチとは
今回紹介した3種目の中で、最も難度が高いのがこの「スナッチ」です。スナッチは地面から頭上まで一気に差し下げるためバーの移動距離が長く、また手幅も広いので踏み込みなど引くときの力が分散しがちになります。
さらに、クリーンは身体の前側でバーをキャッチするので、身体の芯をしっかりと作ることでその動作自体はできるようになります。ところがスナッチは頭上でキャッチするため、繊細なバランス感覚が要求されます。
逆に言えば、スナッチを行うことでバランス感覚が養えて、同時に瞬発力もアップするということです。さらには肩周りの柔軟性も向上します。スナッチは、習得すると様々な恩恵を受けられる、まさにキング・オブ・クイックリフトと呼ぶに相応しい種目です。
ただ、先述の通り、動作はかなり難しいです。そこで実施していただきたいウォームアップとしての種目が、オーバーヘッドスクワットです。これはスナッチだけではなく、クイックリフト全般の導入として行ってもらいたい種目になります。
僧帽筋や広背筋の柔軟性が乏しいと、頭上でバーをキャッチすることはできません。また、その姿勢を維持するためのバランス感覚も必要です。
オーバーヘッドスクワットでは、スナッチを行う際に求められるそうした要素を養えます。しゃがんいくにつれてバーが前に倒れてくる、という人も練習で改善されていきます。
このようなステップを踏んでいくと、スナッチも必ずできるようになります。最初から上手にできる人は誰もいません。私もウエイトリフティングを始めたばかりのころはひどいものでした。しかし、バランス感覚であったり、バーを通す軌道であったり、そういったものが掴めてくると、誰でも次第にできるようになっていきます。
私はクライアントさんをパーソナルで指導するときは、最初にスナッチから入ることもあります。技術的に難しいスナッチを時間をかけて覚えることで、そのあとハイクリーンなど別の種目の習得が比較的楽にできるようになるからです(もちろんハイクリーンから始めても何の問題もありません)。
ウエイトリフティングで大切なのは「スピード」「バランス」「タイミング」の3つです。最初のうちは「バランス」「タイミング」で大丈夫です。慣れてきたら、そこに「スピード」を加えていきます。
最初はできなくて当たり前です。難しそうだから…と敬遠するのではなく、まずは気軽に始めてみてください。
スナッチの一連の動作とそのポイント。肩を返すタイミングに注意
手幅について
手幅は「ハイプル」と同じ。バーベルを持って直立し、バーが恥骨より少し上の位置にくる幅で保持する
正面








重心は足裏全体に。しっかりと胸を張って重心を落とす。腕はリラックス。肩は前に出さない。上半身の姿勢は崩さずに、足裏全体でしっかりと地面をとらえたまま踏み込んで、デッドリフトの要領でゆっくりと引き上げる。股関節と膝関節を伸展させて上方向に伸び上がり、バーベルは浮かせて、なおかつ自分は下がってバーベルを引きつける。肘は斜め上(やや後方)に引く。バーベルを真上に引きながら肩を返して、突き上げながら僧帽筋でグッと真上に押す。その上に押すタイミングで自分の重心を下げる。一連の動作としては①地面を真下に踏み込んで→②バーベルを引いて→③バーベルを浮かせて→④「③」に入る直前の中腰のポジションに戻りながらキャッチ。バーベルの重さは股関節で受け止める。
肩を返すタイミング
OK



バーベルが顔の前にきた段階では、真上に押し上げる準備に入っていないといない。「バーを引きながら肩を返す」という動作にならなければスムーズにキャッチまでいけない
NG



バーベルを「引いてから」肩を返そうとしているエラー動作。バーベルが顔の前にきた時点でも肘がまだ上を向いている状態では、バーベルが浮いたタイミングでキャッチができない
正しい軌道とエラー動作
基本的な動作としては、前号で紹介した「ハイプル」の延長に「キャッチ」が加わるイメージ。前項で解説した「肩を返すタイミング」は、ありがちなエラー動作なので注意したい。また、「ハイクリーン」のエラー動作同様、スタートでお尻の位置が高くなると十分な「溜め」が作れなくなる。下半身に力を溜めて、そこから真下に踏み込んで真上に伸び上がる。
正しい軌道
OK








NG



スタートでお尻の位置が高い
お尻の位置が高いと膝が伸びてしまい、下半身に力を溜めることができない