義兄たちの悲劇を尻目にスペイン人に追随したパウリュ・インカ

さて、このサン・クリストバル教会の建造を命じたワスカル・トゥパック・パウリュ・インカ(以下:パウリュ・インカ)に話を戻しましょう。
インカ第13代皇帝アタワルパを処刑し、クスコを制圧したスペイン人たちは、このコルカンパタ宮殿を第15代皇帝マンコ・インカ・ユパンキに与えました。しかし自分がスペイン人の傀儡(かいらい:操り人形)に過ぎないことを悟ったマンコ・インカ・ユパンキは、クスコを奪還するためスペイン人に戦いを挑むも敗北、インカ帝国最後の都市、ビルカバンバへと後退します。
スペイン人たちは空き家となったこの宮殿を今度はパウリュ・インカに譲渡し、マンコ・インカ・ユパンキが存命していたにもかかわらず"インカ皇帝"の地位を授けました(そのため、インカ史のなかでは彼を第16代皇帝と認めていません)。
パウリュ・インカは1545年にカトリックの洗礼を受け、クリストバル(聖人クリストファーのスペイン語名)という洗礼名を与えられました。その翌年に建設されたのが、このサン・クリストバル教会です。スペイン人が義兄たちを次々と手にかける中、スペイン側に立つことで生き永らえたパウリュ・インカの評判はあまり芳しくありません。ただそれは彼の家族を子々孫々まで生かすための手段であったかもしれず、時代背景を鑑みれば、単なる裏切者とは言い切れないでしょう。
パウリュ・インカは1549年に亡くなるまでスペインの傀儡(かいらい)であり、"幻の皇帝"であり続けました。サン・クリストバル教会を訪れる際は、このエピソードをぜひ思い出してみてくださいね。
Iglesia de San Cristóbal/サン・クリストバル教会
住所:Resbalosa 525, Cusco
入場料:10ソレス(=約320円)
※Boleto del Circuito Religioso (宗教施設周遊券/30ソレス=約960円)でも入場可。
文・写真・原田慶子/提供元・たびこふれ
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