仮想空間上のキャラクター(NPC:non player character)が与える心理効果が明らかになりました。

米国のコーネル大学で行われた研究によって、仮想世界でも「人混み」に置かれると、プレーヤーたちは体感時間が10%ほど長く感じることが示されました

研究では満員電車を模した仮想世界を60秒から80秒ほど体験してもらったところ、NPC密度が1平方メートルあたり1人増えるごとに、プレーヤーが感じる時間がおよそ1.8秒ずつ増えていくことが示されました。

これまでの研究でも仮想世界のキャラクターたちがみせる表情や仕草などは、プレーヤーの心理に大きな影響を与えることが知られていますが、どうやら「人混み」を形成することでプレーヤーの時間感覚にも干渉できるようです。

もしVRゲームを作ろうと考えているならば、NPCが作る人混み効果を利用すると、ゲーム体験に緩急を上手く付け加えられるかもしれません。

研究者たちも、NPCの人混みと現実の人混みが人間の時間感覚に同じような影響を与える場合、人間の行動分析にも応用できると述べています。

しかし、いったいなぜ仮想世界のNPCたちの作る「人混み」に、人間の時間感覚を引き延ばす効果があったのでしょうか?

研究内容の詳細は2022年11月3日に『Virtual Reality』にて公開されています。

人間の時間感覚は「大きい数字」をみるだけでも歪んでしまう

人間の時間感覚は「大きい数字」をみるだけでも歪んでしまう
Credit:Canva . ナゾロジー編集部

時空にかんして研究していたアインシュタインはこんな言葉を残しています。

「熱いストーブの上に1分間手を当ててみて下さい。まるで1時間くらいに感じられるでしょう。では可愛い女の子と一緒に1時間座っている場合はどうでしょう? まるで1分間ぐらいにしか感じられないはずです。それが相対性です」

アインシュタインの話す通り、誰でも特定の状況を長く感じたり、あるいは逆にあっという間に感じた経験があるでしょう。

このように人間の時間感覚は、内面の感情や外界からの刺激によって簡単に歪められることが知られています。

近年の研究では、この時間感覚の歪みが極めて僅かな状況の差でも起こることがわかってきました。

たとえば内面と時間感覚の関連をしらべた研究では、買い物に向かうよりも買い物から帰ってくるほうが時間が短く感じることが示されています。

買い物の行きと帰りの僅かな内面の変化ですら、人間の時間感覚を歪めるのに十分だったのです。

また外界からの刺激が時間感覚に与える影響を調べた研究では、視界にはいったドットの数が多いほうが、ドットが少ない場合にくらべてみていた時間が長く感じられることや、さらには視界にはいった数字が大きいだけでも、みている時間が長く感じられることが示されています。

これらの結果は、人間の時間感覚が、内面の感情や外界からの刺激のどちらによっても容易に変動してしまうことを示します。

一方、私たち人間は人混みに対しても時間感覚の歪みを経験することが知られています。

そのもっとも馴染み深い例の1つに満員電車があげらるでしょう。

私たちは経験的に満員電車がつらく苦しい状況であり、できれば早く終わってくれるように望んでいます。

しかし楽しい時間があっという間に過ぎ去る一方で、つらく苦しい状態を耐える状況は長く感じてしまします。

そこで今回、コーネル大学研究者たちはVR技術を用いて、このような満員電車での時間感覚の歪みが仮想空間のNPC相手でも出現するのか、出現した場合には、どの程度の強さの歪みになるかを調べることにしました。

(※印象は相対的なものであり、向かう仕事場や学校がよりつらく苦しいものであったり退屈に感じている場合、たとえ満員電車でも時間が短く感じることもあります)

既存の時間感覚にかんする研究の多くは、実験室内でコンピューターの画面に表示される画像などを用いるのが一般的でした。現実を模した仮想世界を利用して時間感覚の歪みを測定する試みは極めて画期的と言えるでしょう。

仮想世界のNPC密度は、私たちの時間感覚にどのように影響を与えたのでしょうか?