フェイクの死亡報道はもちろんフラニツキー氏が初めてではない。過去、多くの著名人が生前に死亡報道の洗礼を受けている。ツイッターが生まれる前にもこの種の「生前死亡報道」はあった。米国作家マーク・トウェインは1897年、朝食で新聞を読みだしたとき、自身の死亡が報じられていたので驚いたという。今年9月8日96歳で亡くなった英国のエリザベス女王は2015年、「病院に運ばれた」という急報が流れ、一部で死亡説が報じられた。最近では、名誉教皇ベネディクト16世(95)の死亡説が今年7月流れた、といった具合だ。
オーストリアの議会では、時たま、ハプニングが生じるが、首相を務めた政治家の偽死亡通達とそれに伴う黙祷といった少々滑稽な出来事は今回が初めてだ。労使間の賃金交渉関連の報道、エネルギー危機と物価高騰などに明け暮れていた現地のメディアは今回の報道を結構大きく報じ、読者に笑いを提供している。
死亡のフェイクニュースは第3者が聞けば笑いで済ますことができるが、「お前は死んだよ」といわれた人間はどう感じるだろうか。自分の死を願っている人間がいるのではないか、と勘ぐる人も出てくるだろう。政治家や著名人の場合、一種の有名人税といえるかもしれないが、通常の人間の場合、そうはいかない。
ところで、ドイツで「一度死んだといわれた人はその後、案外長生きする」という諺がある。日本でも類似する諺があるのではないか。生前死亡説が流れた人は「そう簡単に死んでたまるか」といった意地が沸き、結果として長生きすることになるのかもしれない。
フラニツキーさん、フェイクの死亡報道に挫けず、ガチョウ料理を食べてさらに長生きしてください。

ウィーンのグラーベン通り(編集部) n0n4m3h3r0/iStock
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年12月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。