太陽系において、地球のすぐ外側をまわっている火星は、約2年2カ月ごとに地球との接近を繰り返しています。

今年は、地球と火星が接近する年で、最接近の日が12月1日です。見える時間も観測しやすい時刻になってきたので、明るく赤く輝く火星をぜひ見てみましょう。

それでは、見どころや観測情報を紹介します。

2022年に接近する火星の観測情報

いつ見えるのか、探し方は?

2022年火星の最接近の頃の星空
Credit: 国立天文台

地球と火星が最接近するのは12月1日の11時頃ですが、日本で火星が空高く昇って見えやすくなるのは22時以降です。

冬は明るい星座が多いので目印にするのが楽です。さらに、ぱっと見れば星に詳しくない人でも「これ」とわかるオリオン座が目印になるのでオリオン座を探しましょう。

最接近の頃の火星の明るさはマイナス1.9等。オリオン座の近くで一際明るく目立っているため、すぐわかるはず。

数年前、「暗くなっているから爆発するのでは…」と話題になったオリオン座の赤い星、ベテルギウスと、おうし座の赤い1等星アルデバランと合わせて、赤い三角形を夜空に形づくっています。

話題のベテルギウスの明暗を捕らえた! 最期に爆発する星って、実はレアなの知ってた?

なお、22時頃だと全天で1番明るく目立っているのは木星なので、2番目に明るくて赤い星、というざっくりした探し方でも見つかりますよ。

12月の下旬までマイナス1.5等の明るさですし、天気が悪いなど最接近の日に見ることができなくても、しばらく楽しむことができます。

火星はどう動く?

火星は12月8日にもっとも明るくなり、マイナス2等となります。

火星が地球に近づくほど明るく見えるのは確かですが、惑星は自ら輝く星ではないため、明るさは太陽との位置関係の方が影響する場合があります。

12月8日は地球をはさんで太陽の反対側に火星がきます。このように、太陽、地球、地球の外側を公転する外惑星が直線の位置になることを「衝」といい、もっとも外惑星が明るく見えるときです。

そのため、最接近時の12月1日より、12月8日の方が火星は明るく見えるのです。ちなみに木星の場合ですが、もともと明るいので今もよく見えますが、実はもっとも明るい「衝」は9月27日にきていました。

火星は12月8日のマイナス2等のあと、1月まではマイナス1.2等、2月はマイナス0.2等、3月は0.4等とだんだん暗くなっていきますが、数カ月は肉眼で追うことができます。

せっかくなら、火星がどう動いていくのか楽しむのがおすすめです。

惑星は英語でいうと「Planet」ですが、語源は「放浪者」「さまようもの」を意味するギリシャ語の「プラネテス」に由来しています。

有名な漫画のタイトル(おそらく、舞台の宇宙と主人公の生き方探しを兼ねてつけている)なので、ご存知の方も多いかもしれませんね。

星座を形作る星々は、規則的な動きをするように見えます。同じ季節と時間に、同じ位置で観測できますよね。

しかし、惑星の場合は確かに「さまようもの」で、そんな動きはしません。

地球の外側をまわる惑星の場合、西から東の一定方向に動いていると思ったら、一時停止し、逆走し、また一時停止し、再びもとの方向に動くように見えます。

2022年最接近の頃の火星の動き
Credit: 国立天文台

天文用語では、この惑星が西から東へ移動していく動きを「順行」、一時停止することを「」、逆走の動きを「逆行」といいます。

なぜこんなことが起きるかというと、太陽系において地球は火星の内側をまわっているので、火星よりも短い時間で太陽の周りを1周します。

ということは、火星を追い抜くときがきますよね。「逆行」は、地球が火星を追い抜くタイミングで地球から見られるものです。

自分が電車に乗っているとイメージしてみてください。電車だと自分自身が動いていることを意識しにくいので、電車の車窓から見て景色がビュンビュン動いているように見えませんか?

線路の隣に道路があるとします。電車と同じ方向に向かっている車を電車で追い越すとき、車は電車の車窓から見て、ビュンと進行方向と逆の方に動くように見えますよね。これが惑星の「逆行」のときの見え方です。

電車が車を追い越す前は電車から見て車は進行方向に動いているように見えるので「順行」、同様に追い越したあとも再び車は進行方向に動いているように見えるため、再度「順行」になるというわけです。

この惑星の動きは、太陽が中心の地動説が当たり前となっている今は当然かつ仕組みも単純です。

しかし、地球が中心と考えられていた天動説の時代では違います。

地動説と天動説の惑星の動きの比較
Credit: gifmagazine

左は太陽が中心の「地動説」の場合の惑星の動きで、よく知られたものとなります。

対して、右は地球が中心の「天動説」。「天動説」を正しいとするなら、ここまで複雑に惑星が動いていると説明しなくちゃならないわけです。今の時代の人から見ると「こじつけ感すげえ…」となりますよね。

しかし、キリスト教(ローマ法王庁)が17世紀にガリレオ・ガリレオが地動説を支持したことを有罪にしたのは間違いだったと地動説を正式に認めたのは、なんと1992年。けっこう最近の話です。

人気漫画の登場人物の気持ちになってみよう

都内で撮影した火星とオリオン座
Credit: ofugutan / 都内でベランダから撮影した火星とオリオン座

この火星が逆行するという話は、アニメ化の発表やTeNQで展示会も開催中な人気漫画『チ。ー地球の運動についてー』の中で印象的なエピソードとして出てきます。

『チ。ー地球の運動についてー』15世紀のヨーロッパを舞台に、自分たちが美しいと感じる「地動説」の証明に信念を受け継ぎながら命をかけていく人々の生きざまが描かれた物語です。

作中において、ある登場人物は、自分たちのいる「地」は汚れているものの、「天」は完璧であり、その「天」を人は地球という特等席から見ることで認識できることに希望を感じます。

そして、日々火星の観測をしていくと、火星の軌道は円を描いていきます。「完全な円環が描かれる」と期待も高まっていきます。

ところが、2年の観測のはてに火星は逆行の動きを見せます。期待した円を描く”完璧な動き”をしなかったことで、希望が打ち砕かれてしまいます。

このシーンは、それを見ていた主人公に影響を与えるシーンですが、約2年という期間と逆行の動きは、まさに今回の火星と地球が接近するタイミングですね。

漫画の登場人物になったつもりで観測をするのもひとつの楽しみ方です。

もしくは、この火星の動きは地球と火星が太陽の周りを周っている証でもあるので、「やはり地球は動いている」とガリレオなど、地動説が認められるまでに奮闘した歴史上の人物を想いながら観測してみてはいかがでしょう?