欧米気候外交への反撃

思い起こせば1.5℃、2050年カーボンニュートラルを強く打ち出したグラスゴー気候合意はパリ協定を踏み超えた側面があった。今年に入り、G20等の場で先進国がグラスゴー気候合意や1.5℃を共同声明に盛り込もうとするたびに中国、インド、サウジ等がことごとく反対に回った。緩和作業計画を通じて、特に新興国の目標引き上げを促したいという欧米諸国の目論見も中国、インド等にとって5年ごとの目標見直しを規定したパリ協定からの逸脱に映る。

欧米諸国が温暖化のリスクを訴え、野心レベルの引き上げを主張してきたことがブーメランになっている側面もある。今回の会合では先進国に敵対的な有志途上国(LMDC)が「先進国は2050年ではなく、2030年カーボンニュートラルを達成すべきだ」と主張した。1.5℃安定化、2050年カーボンニュートラルを絶対視すれば、限られた炭素予算の配分をめぐってこのような議論が生ずることは十分予想されることだった。

欧米の環境活動家やメディアは不確実性があるにもかかわらず、あらゆる異常気象を温暖化と結び付け、温暖化の危機をこれでもかと煽ってきた。皮肉なことに、こうした議論が中国の目標引き上げにつながらず、「先進国の歴史的排出によって生じた温暖化の被害を何とかせよ」という途上国のロス&ダメージ基金の主張の根拠に使われている。これまたブーメランである。

途上国の高揚感が失望に変わる可能性も

他方、ロス&ダメージ基金設立を勝ち取った途上国の高揚感も、早晩、失望に変わる可能性も大きい。先進国は現在の1000億ドルの目標すら未だに達成できていない一方、気候資金(緩和・適応)のニーズは2030年までに5.8~5.9兆ドルにのぼる。しかもここにはロス&ダメージから回復するための資金ニーズは含まれていない。

結局、「お財布」はできてもお金が十分入らない可能性も高い。異常気象等による被害のどれだけが地球温暖化によって引き起こされているのかを特定することも容易ではない。

グラスゴーでは実現可能性のない1.5℃目標が打ち出され、シャルム・エル・シェイクでは際限なくエスカレートする途上国からの資金要求がもう一つ加わった。いずれもスローガン先行で現実からの乖離は広がるばかりだ。

早晩、それが誰の目にも明らかになったとき、COPプロセスは持続可能なのだろうか?「緑の専制(Green Tyranny)」の著者であるルパート・ダーウオールはCOP27後に「それでもCOPは続く。このプロセスに依存した利害関係者があまりにも多い」と言っていたが・・・。