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前回投稿で述べたとおり、COP27で先進国は「緩和作業計画」を重視し、途上国はロス&ダメージ基金の設立を含む資金援助を重視していた。
COP27では全体決定「シャルム・エル・シェイク実施計画」、2030年までの緩和野心と実施を向上するための「緩和作業計画」を採択し、ロス&ダメージ支援のための資金面の措置及び基金の設置も決定された。
一言でいえば、グラスゴーは緩和を重視する先進国の勝利であったのと対照的に、シャルム・エル・シェイクは資金を重視する途上国の勝利である。COP27において基金の設置が合意されたことは途上国にとって大金星であろう。
途上国はロスダメをあらゆる気候被害の損害賠償を先進国に求償するツールとみなしている。先進国からすれば、足元で年間1000憶ドルの支援目標が達成できていない中、2025年までにこれを大幅に増額する新資金目標を合意する必要があることに加え、新たな資金メカニズムを作ることはレッドラインのはずだった。
他方、緩和に関しては、欧米諸国は緩和作業計画を通じて、特に新興国の目標引き上げを促すことに加え、2025年全球ピークアウト、排出削減対策を講じていない石炭火力のフェーズアウト、排出削減対策を講じていない全化石燃料火力のフェーズアウト等を提案していた。
合意された緩和作業計画は2026年まで(延長の可否はその時点で決定)には「新たな目標設定を課するものではない」との点が明記された。2025年ピークアウト、石炭火力、化石燃料火力のフェーズアウトも盛り込まれなかった。
このため、 クロージングプレナリーでは多くの途上国が「歴史的COP」と称賛する一方、先進国からは不満の声が聞かれた。COP26議長であった英国のシャルマ大臣は「いくつかの締約国はグラスゴーからの後退を試みていた。我々は2025年ピークアウト、石炭フェーズアウト、化石燃料フェーズアウトを提案したが、いずれも盛り込まれなかった」と無念さをにじませた。
今回、途上国に大きく傾斜した交渉結果となった背景としては、議長国エジプトの途上国(特にアフリカ)の利害を重視したことが大きい。先進国の中には「悪い合意ならばないほうが良い」という声もあったが、ロス&ダメージ基金を最後まで拒否してCOPを決裂させれば、先進国に非難が集中する恐れがあるし、ウクライナ戦争下において温暖化防止の実質的なモメンタム低下が懸念している中、COPを決裂させてはならないという考えもあったのだろう。