歴代の公式ボールと2022年の公式ボールの違い
1970年以来、スポーツウェアメーカー「アディダス」は、ワールドカップにボールを提供してきました。
2002年までのボールはそれぞれ、32枚のパネル(六角形20枚、五角形12枚)で構成されており、それら革製のパネルは縫い合わされていました。
しかし2006年からは、合成パネルを使い、縫い合わせではなく熱で接着するなどの新しい技術と素材が用いられることに。
2010年の公式ボール「ジャブラニ(Jabulani)」は、8つのパネルで構成されており、浅い繋ぎ目を採用していました。
ところが多くの選手から「急に減速する」とクレームがつくなど、物議をかもしました。
実はこれ、ボール表面が滑らかすぎるために抗力係数が高いことから生じたものだったのです。
2014年の公式ボール「ブラズーカ(Brazuca)」と2018年の公式ボール「テルスター18(Telstar 18)」は、どちらも6つのパネルで構成されており、表面を粗く加工していました。
そのおかげで、2010年のジャブラニに比べるとおおむね好評だったようです。
そして2022年の公式ボール「アル・リフラ(Al Rihla)」は、水性インクと接着剤で作られており、20枚のパネル(三角形8枚とアイスコーンみたいな四角形12枚)で構成されています。
従来のように表面を粗く加工する代わりに、ゴルフボールのような多数のくぼみがあります。
またパネルのつなぎ目は広くて深くなっています。
これにより抗力係数を低めながら、比較的滑らかな手触りを実現しているのだとか。
ちなみに下図は、4つの公式ボールの比較です。
ほとんどのフリーキックの初速は時速60マイル(時速97キロ)を超え、その後、徐々に減速していきます。
2014年のブラズーカ(緑)、2018年のテルスター18(青)、2022年のアル・リフラ(赤)が、およそ時速36マイル(時速58キロ)で乱流から層流に移行(抵抗係数の上昇)するのが分かりますね。
しかし、2010年のジャブラニ(黄)だけが、時速51マイル(時速82キロ)で移行しており、ジャブラニが「急激に減速する」という評価なのも納得できます。
対照的に2022年のアル・リフラの特性は、評判の良かった2つのボールと似ています。
またその2つに比べて、いくらか「伸びが良い」という傾向もあるようです。
実際、「過去最高のボールスピード」「高い安定性」などと評価されており、展開の速い試合に対応しています。
FIFAワールドカップ・カタール2022は、これまでにも増して、一時も目を離せない試合になりそうです。
参考文献
World Cup: This year’s special Al Rihla ball has the aerodynamics of a champion, according to a sports physicist