FIFAワールドカップ・カタール2022によって世界中が沸き立っています。

そして私たちを熱狂させる「サッカーボールの軌道」は、各国の選手が積み上げてきた技術と、毎回変更されるサッカーボールの特性が組み合わさって生まれるものです。

では、2022年の公式ボールにはどのような特徴があるのでしょうか?

アメリカ・リンチバーグ大学(University of Lynchburg)に所属する物理学者ジョン・エリック・ゴフ氏は、サッカーボールの空気力学の観点から2022年の公式ボールを解説しています。

サッカーボールの物理学

ボールの動きが勝負を決める
Credit:Canva

「シュート」「フリーキック」「ロングパス」などは、試合を大きく左右します。

そのため、ボールが空中をどのように動くかは、選手やサポーターにとって非常に重要です。

サッカーボールの動きに影響を与える要素の1つに、流体力学における「層流と乱流」があります。

層流とは「規則正しい流れ」であり、乱流とは「不規則に乱れ、混ざり合っている流れ」です。

身近な例としては、水道の蛇口から出る水が挙げられます。

層流の例
Credit:Barry Belmont(YouTube)_11. Turbulence

蛇口を小さく開けると水が規則正しく流れ(層流)、大きく開けると大量の水が乱れて流れ(乱流)るのです。

乱流の例
Credit:Barry Belmont(YouTube)_11. Turbulence

同じように、サッカーボールが空中を高速で移動するときには乱流を、低速で移動するときには層流を生じさせます。

蹴られたボールは徐々に減速するので、あるタイミングで乱流から層流に切り替わります。

そして層流がボールに与える抗力係数は乱流の2.5倍大きいので、乱流から層流に移行するときにボールのスピードは急激に落ちることになります。

つまり、乱流から層流に移行するタイミングをコントロールすることで、ボールの動きに大きな影響を与えられるのです。

では、どのようにコントロールできるのでしょうか?

ポイントは、ボールの表面を覆う薄い空気の層です。

ボールが空中を高速で移動すると空気の層に覆われますが、この空気の層が徐々にはがれて、ボールの後方で乱流を作っています。

そしてボールの表面を粗くすると、ボールを覆う空気の層がゆっくりと剥がれ落ちるため、乱流の時間が長くなり、減速しにくい「伸びのある」球筋になります。

ゴルフボールの表面には多数のくぼみがある
Credit:Canva

これを実践しているのがゴルフボールであり、その表面に多数のくぼみがあるのは、滑らかな表面のボールよりも遠くに飛ばせるからです。

では、ワールドカップ公式サッカーボールでは、これらの特性がどのように考慮されてきたのでしょうか?