スポーツの祭典、五輪大会の憲章には政治的、宗教的、人種的な意思表明を禁じている。1968年メキシコシティ五輪大会で200m競走の覇者トミー・スミスと3位のジョン・カーロスがメダル授与の表彰台でブラックパワー・サリュート(拳を高く掲げ黒人差別に抗議する示威行為)をしたことは有名だ。両選手はその直後、処罰を受けている。

サッカーの世界でも同じだ。ピッチでイスラム教徒の選手がゴールした時、アラーに感謝する仕草が見られたが、ピッチ上では本来、宗教的言動は禁止されている。キリスト教徒の選手でも同様だ。ブラジルのナショナルチームが勝利した時、多くの選手が十字架を切り、天を仰いで祈りを捧げる姿が過去、多く見られた。政治だけではなく、宗教的な言動も禁止されている。

カタールのW杯について、看過できないニュースが流れてきた。イタリアの調査ジャーナリストグループ「Irpi Media」によると、カタールとFIFAは「カタールW杯大会が気候中立な最初の大会」と宣言してきたが、事実はそうではないというのだ。

衛星画像からカタールでは過去10年間にW杯用の新たなスタジアムを建設するために少なくとも800万平方メートルがアスファルトで舗装され、コンクリートが敷かれたことが明かになった。サッカー場1140面分に相当する。6つのスタジアムがコンクリートの表面にゼロから建設され、2つの既存のスタジアムが改装された。また、8つの会場間で人々を移動させるために、何千もの新しい道路と駐車場が建設された。ドーハ空港が拡張され、スタジアムを冷却するためなど、多数の補助的な建物が建設され、7つの取り外し可能なシェルターも建設された。淡水化プラントを使用する砂漠での水処理だけでもエネルギー集約的だ。カタールはほぼ化石燃料のみを使用している。FIFAとカタールは、建設段階から大会全体の解体までCO2換算で360万トンの温室効果ガスが大気中に放出されると計算していたが、実際ははるかに多いわけだ。

話は最初に戻る。砂漠の地で多くの高層ビルが聳え、砂漠にはコンクリートが敷かれ、6つの新しい競技用スタジアムが建設された。カタールではラクダレースしか知らない昔の遊牧民がボールを必死に追いかけるサッカー試合を観て、なんと思うだろうか。終末だろうか、それとも中東の新しい夜明けだろうか。

hasan zaidi/iStock

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年11月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。