そして、もう一つ、合法と主張することが可能なやり方として使われたのが、国政選挙での選挙活動の中心となり、まさに、票のとりまとめに貢献してくれる首長・議員などの「地方政治家」に「政治資金」としてお金を渡す方法だった。
それが、河井克行氏が行った選挙買収の(1)の、地方政治家への金銭供与だ。
地方の首長・議員には、その地域でまとまった数の支持者、支援者がいる。国政選挙でもかなりの票を取りまとめることができる。しかも、そういう政治家に、特定の候補のための活動を依頼してお金を渡しても、「選挙運動の報酬」ではなく、「政治活動のための費用の支払」であり、「政治資金を渡した」と説明することが可能だ。
実際に、河井氏も、上記(1)について、公判では一貫して、「党勢拡大」「地盤培養」のための政治資金だったとの主張を続けた。最終段階で、それまでの無罪主張を変更し、起訴事実について有罪を認めたが、その後の被告人質問でも、「政治資金として渡した」との供述を続けた。
国政選挙の度に、このような地方政治家や有力者への金銭の供与が恒常的に行われてきたことについて、河井氏が公判で述べただけでなく、同様の実態が、その後、自民党京都府連をめぐる「選挙マネロン疑惑」、新潟の星野伊佐夫県議の裏金要求疑惑など、国政選挙での買収疑惑が発覚し、刑事告発されている。
このような政治家間の金銭の供与は、「政治活動のための寄附」と弁解された場合、「選挙運動」の報酬であることの立証は容易ではない。そのため、従来は殆ど警察の選挙違反の摘発の対象にはされて来なかった。
ただし、このような選挙に関連する地方政治家等への金銭の支払に、「政治活動のための寄附」との説明が可能なのは、公示日より前の場合である。選挙期間中に候補者の応援をする行為は、「政治活動」による合法化の言い訳は全く通用しない。
寺田氏は、17日の衆院総務委員会でこの問題を質問され、
「公示日当日は、選挙カーでの演説はすべて自分が行ったので、労務者報酬を支払った人達は、公示日は選挙運動をしていない」
と答弁しているが、公示日当日、選挙カーで応援演説を行わなくても、寺田氏の陣営に加わって選挙の応援をしていた人達であれば、何らかの形で「選挙運動」に関わっていた可能性が高い。寺田氏の「言い訳」で、公選法上合法と言い切れるとは思えない。
選挙のための「地方政治家への金銭供与」を、「党勢拡大・地盤培養のための政治資金」との言い訳を用意して行うという巧妙なやり方で「ボランティア選挙の原則」をかいくぐってきたのが保守系政党の選挙のやり方だった。今回の寺田氏の地方議員への金銭支払は、少額とは言え、あまりにも、単純で初歩的な違反である。総務大臣が、このような「運動買収」を問題にされること自体、「選挙の公正」に対する職責の重さからしてあり得ない話である。
公職選挙法を所管する総務大臣という主要戦艦「寺田」に対して、この「買収」疑惑の文春砲は、トドメの一撃となる可能性が高い。主要戦艦の3隻目の撃沈で、岸田艦隊の命運も「風前の灯」と言えるだろう。