ちなみに、「難民条約」は1951年に採択された条約で、「難民の地位に関する1951年の条約」の第1条で、難民とは「人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分な理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けられない者またはそのような恐怖があるために国籍国の保護を受けることを望まない者」と定義されている。

そして同条約には、「難民を彼らの生命や自由が脅威にさらされるおそれのある国へ強制的に追放したり、帰還させてはならない(難民条約第33条、「ノン・ルフールマン原則」)。庇護申請国へ不法入国しまた不法にいることを理由として、難民を罰してはいけない(難民条約第31条)等が明記されている。

よりよい生活を求めて欧州に殺到する移民は経済難民と呼ばれ、難民申請をしても認知される率は少ない。最近では、「環境難民」と呼ばれる移民も増えてきた。同時に、多くの移民を欧州に不法に送る人身売買業者が暗躍している。

冷戦時代、東西両欧州の間に位置するオーストリアにはソ連・東欧共産圏から200万人以上の政治亡命者が殺到し、オーストリアは「難民収容国」と呼ばれた。冷戦後も同国には政治亡命者ではなく、経済難民が流入。今年既に9万人の難民申請者がいるという。

ネハンマー首相は、「難民の殺到は収容できる限界を超えている」と述べている。難民を収容所で収容出来ないため、テントで収容する地域も出てきたが、難民の人権擁護団体やテントが立てられた地域住民から強い反対の声が聞かれる。

ネハンマー首相は「欧州人権条約(EMRK)は暗礁に乗りあげている」として、難民問題の解決には適していないと発言したため、与野党で議論を呼んでいる。与党「国民党」出身の欧州議会議員カラス議員は「EMRKの人権擁護の内容の修正を求めるという意見は容認できない」とネハンマー首相の発言を批判するなど、保守派政党の国民党内で意見の相違が浮かび上がってきている。

難民がいったん欧州内に入った場合、難民申請が却下されるまで強制送還もできないし、その間他の国に移動させることもできない。そこで国境警備を強化して、難民の流入を防ぐことを最優先すべきだというわけだ。

モーセと60万人のイスラエル人はジュネーブの難民条約から見た場合、エジプトに戻れば奴隷生活を強いられ、悪くすれば殺される危険性があることから、政治難民というカテゴリーに入るかもしれない。

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編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年11月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。