クリスマスの「光」はどこまで届くか

夜のニュースでアナウンサーが、「エネルギー不足で今年の冬は“石器時代”に戻るかもしれない」と冗談を交えて話していた。プーチン氏のウクライナ戦争のおかげ(?)で、第2次世界大戦後、70年間あまり戦争のない時代を享受し、忘れかかっていた「節約」、そして生きていけることへの「感謝」を思い出した国民も少なくはないだろう。

試練は続く。クリスマスを間近に控えているからだ。キリスト教社会の欧州では救い主イエスの誕生を1年の中で最大の祝日としているから、クリスマス・シーズンになれば、街は光の海になる。店は1年で最高の売り上げが出る季節だから、店の中は輝くイルミネーションとオーナメントで美しく浮かび上がる。すなわち、欧州では1年間で最もエネルギーの消費が多いシーズンに突入するわけだ。この時期にエネルギー節約を訴える政治家も苦しいだろう。国民から不評を買うことは必至だからだ。

ローマ教皇フランシスコは2年前、「パンデミックはクリスマスの光を消せない」と強調し、新型コロナウイルスの感染下でもイエスの降臨を祝うクリスマスの意義を信者たちに語った。教会は、コロナ禍でクリスマスだけではなく、復活祭も盛大に祝うことができない時を経験してきた。教会に入る信者数を制限するなど、さまざまなコロナ規制を強いられた。

幸い、ワクチン接種の拡大でコロナ感染は今年に入り、新規感染者は急増しているが、重症化リスクは少ない。欧州諸国のほぼ全てのコロナ規制は解除された。そこで「3年ぶりにクリスマスを堪能できる」と喜んでいた矢先、欧州国民はウイルスの新しい変異株の登場ではなく、ウクライナ戦争、それに伴う物価高騰、エネルギー価格の急騰に直面してきたわけだ。

パンデミックは“クリスマスの光”を消せないが、エネルギー危機で文字通り、“電気の光”を消さざるを得なくなってきた。欧州最大のウィーン市庁舎前広場のクリスマス市場はオープニング時間を遅くし、店舗の数も減らすなど電力の節約を行っている。夜の美しいシルエットを見せていたカトリック教会の照明も抑えている。フランシスコ教皇は、「パンデミックではなく、電力危機もクリスマスの光を消すことはない」と言い直さなければならないだろう。

話は最初に戻る。朝鮮半島の夜の衛星写真を見た時、そのコントラスに驚いたが、次に「北の国民は夜空に輝く星を韓国の同胞より良く眺めることが出来るのではないか」という思いが湧いてきた。夜空が暗ければ、それだけ、星はその輝きを増す。ネオンが溢れる都会では夜、星を探すのが大変だ。韓国は24時間、不夜城だ。ソウルの夜空にはどれだけの星が見えるだろうか。

一方、空腹で行動の自由もない北の国民に夜空を眺める余裕があるだろうか。夜、外で星を眺めていたら、治安関係者に問い詰められるだろう。北では夜空に浮かぶ無数の星を眺める自由さえないのだ。にもかかわらず、北の夜空には無数の星が眩しいほど輝いていることは間違いない。クリスマスの「光」が紛争地のウクライナばかりか、北朝鮮の国民にも届くことを願う(「北の夜空に輝く星は美しいか」2017年8月18日参考)。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年11月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。