専門知識は武器にならない

専門家が書く文章の特徴にもう一つ、専門知識をそのまま書いてしまうという傾向がある。専門知識を披露する文章、要するに「テキスト」に載っている文章だ。テキストのための文章なら良くても、雑誌や新聞のコラム、あるいはブログでそのような書き方はまず敬遠される。

そして専門知識をそのまま書いているだけではすぐにネタ切れする。自身の頭の中にある専門知識で、なおかつ一般向けの内容となれば極めてネタは限られる。

さらに専門家が決定的に勘違いしていることが「専門知識は武器になる」ということだ。同じ資格を持っている人は何万人もいる。例えば税理士ならば約7.7万人、弁護士が約3.7万人、社労士は約4万人だ。

専門家ならば誰もが持っている知識を披露しても、それはなんら差別化にならない。他の専門家と同じことしか書けないのならすでに知名度も実績も上のアノ人にお願いしよう、となってしまい、新しい書き手が後から割り込むことは不可能だ。専門知識はあくまで「道具」に過ぎず、ネタを専門知識で料理して、食べやすく=読みやすくした上で読者に提供するのが書き手の仕事だ。

そんなことはライターの仕事であって専門家の仕事ではない、というのであればそれは人それぞれのスタンスだが、メディアで名前を出して記事を書くことは専門家として仕事をする上で極めて重要な営業にもなりうる。それを放棄することはこれから業務を拡大したい人にとっては良い選択とは言えないだろう。

専門家は文章がヘタとしつこく馬鹿にしてるように感じたかもしれないが、そうではなく、多くの専門家が文章がヘタということであれば文章力を身につければそれだけ強力な武器になるということだ。専門家にとって専門知識はあって当然、そこにどのような武器を上乗せするか? その一つが文章力だ。

専門家であれば、自身の専門分野について全く知識の無い人がトンチンカンな話をしているのを見たこともあるだろう。これは執筆も同じだ。書き方を全く知らない人が書く文章はトンチンカンで読者に全く伝わらず、せっかくの手間をかけても時間の無駄どころか、マイナスの効果しか産まない。そして下手くそな文章はそれだけで頭が悪く見える。これは知識を売る専門家にとって致命的だ。つまらない文章を書くくらいなら何も書かない方が良い、ということも執筆指導ではしつこく伝えている。

専門家にとって必要なことは専門知識を伝えるための執筆テクニックだ。

中嶋 よしふみ(シェアーズカフェオンライン編集長・FP ビジネスライティング勉強会講師)

※こちらの記事は「ビジネスライティング勉強会」のサイトから転載しました。

【ビジネスライティング勉強会について】 士業やコンサルタントなど、差別化・ブランディングを図り集客につなげたい専門家のための執筆オンラインサロン。メイン講師の中嶋よしふみは、2011年にFPとして開業して以来、記事執筆のみでFP相談を集客し続け、出版やテレビ・ラジオへの出演・取材協力、経済紙等での取材・執筆業務を獲得してきた。また自ら運営する経済WEBメディア「シェアーズカフェ・オンライン」の編集長として、専門家・士業へ執筆指導を行い、執筆をきっかけに業務拡大を成功させた書き手を多数育ててきた。ビジネスライティング勉強会では、サロン会員に中嶋の執筆ノウハウを余すところなく提供している。

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2022年11月8日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。