フックの実例

アンジェリーナ・ジョリーさんの話であれば、ガンの一部は遺伝によるものであり、検査により高い確率で乳がんになる可能性が高いと分かったため切除に踏み切ったという。乳がんは5年生存率で見れば他のがんと比べて死亡率は低いが、それでも深刻な病気であることは間違いなく、特に女性であれば気にしない人の方が少数派だろう。こういったフックからガン保険の話を書けばスムーズな記事への導入となる。

とっくに気づいている人もいると思うが、この記事ではフックとして「ガイアの夜明け」を利用した。「誰もが知っている」という意味では有名なTV番組もフックになる。加えて、文章の書き方とガイアの夜明けは、組み合わせとして落差が大きい。落差が大きい組み合わせであるほど、読者の興味を引く。

過去に書いたものでは「大学生の就職活動」をフックに「お天気おねえさんのキャリア」を書いた「就職活動を始めた大学生はNHKのお天気お姉さん・井田寛子さんに学べ。」という記事がある。

当然のことながら変な組み合わせで釣って目をひけば良いわけではなく、フックを利用して読者に新しい視点を提供することが目的だ。従来は「お天気おねえさん=天気に詳しい・カワイイ」といった程度の視点・切り口しかなかったこともあり、この記事はヤフートップに掲載されて大きな反響を頂いた。

専門家は「文章の専門家」ではない

自分はマネー・ビジネス分野の専門家に編集長として執筆指導をしている。新たに応募してきた人を書き手として参加させるかどうかの判断も行っている。その判断のためにサンプル記事を提出してもらっているが、全く指導を受けていない専門家の文章は10本中9本は1行目からがん保険の説明を始めてしまうような知人のFPと同じ書き方だ。

税理士や社労士、司法書士、FPなど、専門家が書いた文章と聞けば読みやすい文章だと思うかもしれないが実際はその真逆だ。編集者の間では「専門家は文章がヘタ」であることは共通認識に近い。

おそらくプロのライターや文章好きな人にとっては、文頭にフックを入れるなんて常識、初歩の初歩、偉そうに説明するなと思われるかもしれないが、実際にはほとんどの専門家はその「初歩の初歩」が出来ない。

初歩の初歩なら編集者が教えれば良いじゃないかと思う人もいるかもしれないが、素人をイチから鍛えるような余裕は出版社には無い。それならばすでに文章力のあるライターに取材をさせれば良いと編集者は考える。つまり文章を書けない専門家は永遠に執筆の仕事が回ってこない。結果的に執筆の仕事が出来る専門家はごく一部ということになる。

これは商業メディアに限らずブログ等でも同じだ。無料のブログだからと読者は評価を甘くはしない。経済系の分野であれば、東洋経済やプレジデントやダイヤモンド、あるいは日経新聞など、そういった大手メディアの記事と同等以上の水準でなければ誰も読もうとは思わない。

ネット上には個人ブログも経済メディアも平等に存在している。自分は書き手としては素人だから、無料のブログだから、といった言い訳は一切通用しない。結果的に全く反響の無いブログを何年も放置、という専門家は珍しくない。

文章がヘタなのに自覚の無い専門家

だから専門家はダメとか能力が低いと言いたいわけではない。専門家はあくまでその分野の専門家であって、執筆の専門家ではないのだから文章がヘタなことは仕方が無い。しかし、一番の問題は専門家自身がそれを自覚していないことだ。

執筆指導では、出来上がった記事を真っ赤に直してどこがダメなのかを説明をすれば大抵の書き手は納得する。すると「私は文章が得意な方だと思っていた」「それなりに書ける方だと自信を持っていたのにショックだ」と言われることもある。最初は「え“、これで上手いと思ってたの?」と逆にショックを受けていたが、今では定番の流れとなっている。

執筆指導を受けていないということは、どんな文章が読みやすく、どんな文章が読みにくいか知らないのだから、あとは感覚で判断するしか無い。自身の文章力について誤解をしていても仕方が無いということになる。