ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの報告書「ファイナンス・フォー・クライメート・アクション」(論文、紹介記事)は、上記3項目合計で、先進国は年間1兆ドルを支払う必要がある、とした。前述の年間1000億ドルすらじつは未達だったが、この相場が一気に10倍になった訳だ。この報告書の著者の1人は英国のニコラス・スターンであり、COP27で発表され注目を浴びた。
当然、年間1兆ドルなど先進国が飲めるはずはない。この交渉はこれから何年間も行われることになるだろう。
だが「パンドラの箱」は空いてしまった。先進国は自らのCO2ゼロも到底不可能なのに、更に毎年1兆ドルを途上国に支払うなど、出来る筈もない。気候危機だと煽って途上国に圧力をかけてきたことがブーメランになって帰ってきて、活路が無い袋小路に嵌ってしまった。
今年のCOP27では、気候変動枠組条約がいよいよ南北問題の場となった。先進国の代表にとっては甚だ居心地の悪い場所となるので、今後、先進国の関心は下がって行くのではないか。
かつて先進国主導のGATTやWTOに対抗して、途上国主導でUNCTADが貿易に関する南北問題に取り組んだ。だがこれは先進国が乗り気でなく衰退した。
気候変動枠組条約も南北問題の場となると、衰退に向かうのかもしれない。COP27は、「終わりの始まり」なのだろうか。
■
『キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志』のチャンネル登録をお願いします。