
fergregory/iStock
途上国からの要求は年間1兆ドル(140兆円!)に跳ね上がった。
全部先進国が撒いた種だ。
ここのところ先進国の代表は何を言ってきたか。以下のバイデン大統領のCOP27でのスピーチが典型的なので紹介しよう:
米国では、西部で歴史的な干ばつと山火事、東部で壊滅的なハリケーンと暴風雨が発生しています。
ここアフリカでは、気候変動に対して最も脆弱とされる多くの国々の本拠地であるアフリカの角では、4年にわたる激しい干ばつにより、食糧不安と飢餓が発生しています。
一方、西アフリカのニジェール川は、より激しい降雨のために増水し、漁業や農業のコミュニティに大打撃を与えています。
ナイジェリアでは最近、洪水で600人が死亡し、130万人以上が避難している。何百年も使われてきた季節的な家畜の移動ルートが変更され、牧畜業者と地元の農業コミュニティとの間の紛争のリスクが高まっている。
気候の危機は、人間の安全保障、経済の安全保障、環境の安全保障、国家の安全保障、そして地球の生命そのものに関わる問題なのです。
世界中の異常気象はすべて人間が引き起こした気候変動のせいだと言わんばかりだ。
もちろん、この認識は大間違いだ。人間のCO2排出と異常気象の因果関係は、全く無いか、全く分かっていないか、あったとしてもごく僅かだ。これについては、このアゴラでも何度も書いてきた。
ところが、バイデン大統領はじめ、先進諸国の代表は、自国の運動家や政治勢力のサポートを得るために、全てが人間のCO2のせいだとしてきた。
そこで先進国は、途上国もCO2をゼロにすべきだとして、化石燃料資源の開発や利用を止めさせて、再生可能エネルギーを押し付けてきた。
これでは途上国はたまらない。そこで彼らのいまの論法は、「地球環境を破壊したのは先進国だ。以下の3項目にわたって責任をとれ」というものだ。
化石燃料を止め再生可能エネルギーにしろというのであれば、その移行(気候変動交渉用語で「トランジション」と言う)に必要な資金を支払え。 異常気象を引き起こしているのだから、防災(「適応」という)のための費用を支払え。 異常気象による損害(「ロス&ダメージ」と呼ぶ)を賠償しろ。
何しろ先進国自身が「いまの異常気象は全て人間のCO2のせいだ」と(嘘だけれど)自白しているのだ。ならば、歴史的に沢山CO2を出してきた先進国が全て金を払えというのは至極当然の理屈になる。
昨年のCOP26は、議長国はイギリスで、中国やインドなど途上国にCO2ゼロを約束させるという圧力をかけていて、先進国が攻勢だった。
だが今年のCOP27は、議長国はエジプトで、途上国が反転攻勢に出た。
昨年までは、トランジションと適応について、先進国は年間1000億ドル支払うと約束していた。ところがこれに加えて、今年は「ロス&ダメージ」が新たに議題に加わった。
これは途上国側は宿願だったが、これまでは先進国は頑として受け付けなかった。ところが、先進国があまりにも気候危機だ、人間のCO2のせいだ、と言い続けたので、この「ロス&ダメージ」を含めて、「先進国が金を支払うべきだ」という意見がずいぶんと説得力を持つようになってしまったのだ。異常気象が起きれば、それは気候変動のせいであり、全て先進国の責任なのだ。