中国が採用するゲーム理論は「弱者の戦法」
ゲーム理論は対象となるゲームや戦争形態ごとに、多くの種類が存在します。
研究者は中国の侵攻ポイントが少数に集中していることから、中国が侵攻に採用しているゲーム理論は「Blottoゲーム」に近いものであると推測しました。
相手の防衛の手薄なところに目標を絞って狙えば、少ない兵力でより大きい兵力の相手に勝つことも可能になります。
このような的を絞った戦略は通常、資源が少なく兵力が限られたプレーヤーが採用するものであり、いわばゲリラ戦術に代表される「弱者の戦法」の1つです。
中員国境ではインドの兵力の手薄なポイントで、にらみ合う兵士たちがたまたま上がった銃声などを発端に小競り合いを起こし、中国側が勝つというような状況が発生します。
すると中国側は効率的に要所を抑えて優位に立っていくことができるのです。
現在の一般的な認識では、中国はインドを凌駕する軍事力を持っていると考えられており、紛争にかんしても強国(中国)と弱小国(インド)といった枠組みで見られています。
しかしながら中国が勝利の方程式として採用したゲーム理論は、自分が弱者である場合に最適解となるものであり、矛盾が生じています。
研究者たちは「中国はインドの軍事力について、実際にはかなりの脅威を感じていることが原因である可能性が高い」と述べています。
しかしより興味深い結果は、中国が侵攻を起こすタイミングにありました。
国内の社会不安が高まると侵攻がはじまる
研究者たちは以前から、国境紛争が起こるタイミングについても注目していました。
2021年に行われた研究では、中国からインドへの侵攻は、中国の社会情勢や経済情勢が不安定化した時期に多くなることが示されています。
戦争の危機を利用して国内の団結力を高め不安定な情勢を乗り切る方法は、人類社会において普遍的に用いられる手段となっています。
また侵攻は、インドが米国との関係を深めようとする時期にも多くなることが示されました。
他国と同盟しないように圧力や脅しをかけるのも、人類社会に古くから存在する手法です。
さらに今回の研究では、中国の侵攻がおよそ3年の周期で発生することや、夏季に多くなりがちであることが報告されています。
研究者たちは、これまで判明した中国の侵攻パターンやゲーム理論の存在を理解することができれば、有効な対抗手段を構築できると述べています。
研究者たちは最後に「誰も戦争は望んでおらず、軍事的介入は最後の手段であるべきだ」と述べています。
14億人の人口を要する中国と同じく14億人の人口を有するインドが正面戦争をはじめた場合、結果は人類史上例をみない悲惨なものになるでしょう。
参考文献
Chinese incursions into India are increasing and are strategically planned, study finds
元論文
Rising tension in the Himalayas: A geospatial analysis of Chinese border incursions into India