目次
下請法改正の影響
今後の法改正の流れ

下請法改正の影響

ここでは改正案が施行されたと仮定し、下請法改正の影響を考えてみます。

影響1. フリーランスの保護が加速する

下請法改正により、当然ながらフリーランスの保護が加速することになるでしょう。フリーランスの買いたたきや一方的な契約破棄、業務のムチャぶりなどが減少する可能性も高く、トラブルに遭遇したときの対処もカンタンになります。

たとえば今後起こりそうなトラブルとして、資本金1000万円以下の事業者からインボイス制度への対応に関して「課税事業者にならなければ取引を打ち切ります」と一方的な通告を受けた場合、下請法を根拠に戦えるようになるでしょう。

影響2. フリーランスの線引きがカンタンになる

先ほども触れたように、フリーランスの定義はかなりあいまいで、「いったい誰がフリーランスなのか」を明確にすることが困難でした。

しかし政府から公式な定義が発表されれば、その定義が実態からかけ離れたものでない限り、国内の事業者も政府の定義を参考にする可能性は高いです。

そうなると、私たちがなんとなくイメージする「フリーランス」がしっかりと定義されるため、「誰がフリーランスなのか」を線引きできるようになるでしょう。

影響3. 小規模事業者の負担・リスクが増大する

「資本金要件がなくなる」のはフリーランス側にとってメリットが大きい一方、今までは下請法の対象外だった小規模事業者の負担やリスクが増大するデメリットもあります。

「買いたたきや一方的な値下げをしなければいいだけでは?」と思われがちですが、じつは下請法の適用される事業者は、業務を発注するときに以下の内容がすべて記載された書類を発行する義務を負います(※内容は一部簡略化しています)。

  • 発注元と下請先の名前
  • 業務委託日
  • 業務内容
  • 納期
  • 納入場所
  • 検査完了期日
  • 報酬額
  • 報酬の支払期日

この書類は、専門用語で「3条書面」と呼ばれますが、わかりやすく言えば発注書のことです。発注書に上記内容を盛り込み、フリーランスに渡さなければいけなくなります。

小規模事業者のなかには、売上が上がってきたフリーランスが法人化しただけの「ひとり会社」なども少なくないでしょう。その場合、なんとなくの口約束や、ごくカンタンな発注書で業務をフリーランスに外注するケースも多いかもしれません。

しかし資本金要件がなくなれば、フリーランスへの外注を行うほとんどの法人に3条書面を作成する義務が生じます。結果、小規模事業者の事務負担や事業リスクが増えることになるでしょう。

影響4. フリーランスへの発注控えが発生する(かも)

そもそも良くない状況ではありますが、フリーランスに業務を発注する理由として「雑に・気軽に発注できるから」と心の底で思っている小規模事業者もいるでしょう。

しかしそうした事業者も、今後はフリーランスを相手にする場合は下請法が適用されることになります。そうなれば、「じゃあフリーランスじゃなくて法人を選びます」と発注を控えられる可能性が考えられるでしょう。

ここまで悪質なケースではなくても、「フリーランス相手でも法人相手でも、同じ事務コストやリスクが発生するなら、法人に発注したい」と思う小規模事業者はいるかもしれません。

フリーランス保護の法整備は、ある意味で「発注側がフリーランスを選ぶうま味」が損なわれる側面もあるといえます。

今後の法改正の流れ

ここまで、下請法改正のポイントを開設しました。改めて想定される影響をまとめると、以下のとおりになります。

  • フリーランスの法的な保護が加速する
  • 小規模事業者の負担が増える
  • フリーランスへの発注控えが発生する可能性がある

今回の改正案は2023年の通常国会へ提出予定とのことなので、恐らく2022年中には改正案の枠組みが固まり、2023年の国会での審議を経て、法律が公布されるでしょう。

その後に関係者からの意見募集やパブリックコメントなどの公募内容を踏まえ、2024年ごろ改正法が施行されるのではないかと予想されます。

まだ少し先の話にはなりますが、フリーランスや小規模事業者にとって影響の大きい法改正です。自分の身を守るためにも、下請法について理解を深めておきましょう。

(執筆:齊藤颯人 編集:じきるう)

提供元・Workship MAGAZINE

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