目次
本研究の内容
本研究の成果

本研究の内容

本研究では、国内の複数の医療機関から、経尿道的前立腺切除術および針生検の前立腺病理組織標本の提供を受け、弊社の既存開発モデルである大腸低分化腺がんを検出する深層学習型人工知能モデルªを基盤モデルとしています。

その基盤モデルに対してPartial fine-tuning法ºによる転移学習ならびに、弱教師あり学習を行うことで、病理医による精密且つ大量のアノテーションデータを用いることなく、前立腺がんを検出する深層学習型人工知能を開発しました。また、開発した人工知能は、教師データとは異なる検証症例ならびに公的データベース(TCGA)からの症例を用いて、精度の検証を行いました。

ª文献:Diagnostics, 11: 2074, 2021
º文献:Proceedings of Machine Learning Research, 143: 338-353, 2021

本研究の成果

開発したモデルを検証したところ、経尿道的前立腺切除術検体の検証症例において、ROC-AUCが0.98前後という極めて高い精度が得られ、病理医による検証の結果、病理組織学的に妥当であることが確認されました。さらに、強い変性を受けた組織片にも、安定した腺がん検出精度が得られました。実際の病理診断において、変性の強い組織は細胞形態の詳細な観察が困難なため、多くの場合変性所見を差し引いて細胞異型および構造異型を推定し、周囲間質の反応などを加味し、病理医が良悪性を総合的に判断します。本研究で開発した人工知能では、このようなプロセスを踏まずに判断を行うことで、変性した上皮過形成や間質の偽陽性を減少させることに成功しています。

本研究成果のポイントは、前立腺がんの針生検病理組織標本に対する人工知能モデルでは十分な精度が得られなかった経尿道的前立腺切除術検体の病理組織標本において、転移学習・弱教師あり学習を用いることで、弱ラベルを付加した少数の教師データによって、極めて高精度な深層学習型人工知能の開発に成功したことです。また、病理医によるアノテーションデータを用いずとも、熱焼灼など変性した病理組織においても、腺がん領域を安定して検出できたことは、弱教師あり学習がある程度広範な学習適応を有していることを強く示唆しています。