デジタル病理支援ソリューション「PidPort(ピッドポート)」を提供するメドメイン株式会社は、Deep Learning(深層学習)の転移学習を用いることで、前立腺の経尿道的前立腺切除術検体の病理組織デジタル標本において、前立腺がんを高精度に検出する人工知能の開発に成功しました。
本研究成果の概要
経尿道的前立腺切除術(Transurethral resection of prostate:TUR-P)検体の病理組織デジタル標本において、前立腺がんを高精度に検出する人工知能の開発に成功。
本研究の背景
本研究は、多様な臓器の多彩な病理組織標本におけるがん組織形態を高精度に検出することを目的に、2021年より継続的に発表している一連の転移学習を用いた人工知能開発¹の成果です。2021年7月に国際発表したPartial fine-tuning法に関する研究論文²を応用し、開発しました。
前立腺がんに関しては、2022年に針生検病理組織デジタル標本における腺がんの検出を可能にする人工知能の開発に成功しましたが、経尿道的前立腺切除術検体では精度が劣る結果となっていました(ROC-AUC:0.74 ~ 0.91³)。
¹文献:Cancers, 13: 5368, 2021;Diagnostics, 11: 2074, 2021;Diagnostics, 12: 768, 2022
²文献:Proceedings of Machine Learning Research, 143: 338-353, 2021
³ROC-AUC:ROC曲線の下の面積を AUC (Area Under the Curve) と呼び、分類モデルの評価指標として用いられる。AUC が 1 のときが最良であり、ランダムで全く無効なモデルでは 0.5 となる。出典:Wikipedia
原因としては、経尿道的前立腺切除術検体に高頻度で含まれる前立腺肥大組織や、熱焼却に伴うアーチファクトおよび炎症を、前立腺がんとして誤って検出する場面が多かったことにあります†。そこで、経尿道的前立腺切除術検体については、人工知能モデルを別途開発する必要があり、本研究に至りました。
経尿道的前立腺切除術では、高周波電流にて前立腺を削り取るように組織を切除してくるため、病理組織検体は大量の小さな組織片で構成されます。そのため、プレパラート上に多数の断片的な組織片が配置されるのですが、胃や大腸などの生体検査に比較して組織量が非常に多く、標本枚数も多くなるのが特徴です。また、先述のとおり病理診断に際して熱焼却に伴うアーチファクトの強い検体が散見されるため、顕微鏡下の観察・診断業務における負荷が大きくなります。したがって、病理医の診断補助を可能にする人工知能の開発が望まれているのです。
†文献:Diagnostics, 12: 768, 2022