AI技術の進展はこの社会に、淘汰される恐怖とチャンスへの期待とが交錯する状況を生み出している。チャンスをつかむ側に回るために求められるのは、変化を先読みする「未来予測力」ではないだろうか。

この未来予測力の磨き方について、企業の長期戦略立案のプロであり、先読み力が問われるクイズの世界でも活躍する鈴木貴博氏が、具体的な事例とともにアドバイスする。

※本稿は『THE21』2020年5月号より一部抜粋・編集したものです。

科学的なデータでわかるグレタさんの怒りの理由

未来予測力,鈴木貴博 (画像=THE21オンライン) この連載ではプロのコンサルタントが使っている未来予測の情報と、そこから得られる示唆についてお話しします。さて、今回のテーマは地球温暖化です。

「なぜグレタさんはあんなに怒っているのだろう」

大半の人は、気候問題の国際会議を訪れては怒りの発言を繰り返す17歳のグレタ・トゥーンベリさんを見て、そのような疑問を持つかもしれません。

しかし、あまり広くは知られていない事実があります。温室効果ガスによる地球温暖化で、私たちの未来がどのような世界になるのかは、科学的な研究とシミュレーションでかなり詳しくわかっている、ということです。

そしてそのデータが予測する未来は、かなり怖い。グレタさんの怒りは、正当な怒りかもしれません。そもそも、温室効果ガスの状況を数字として把握されていらっしゃる読者の方は、ほとんどいないのではないでしょうか。

パリ協定では地球温暖化を抑制するために、各国がさまざまな削減努力を行なうことを決めていますが、その効果としては温室効果ガスの増加ペースを落とすことまでしかできません。

20年後には地球の平均気温が2度上がる

実際、映画『不都合な真実』がヒットして、私たちの地球環境に対する関心が高まった今世紀初め頃の二酸化炭素濃度は、世界平均で370ppm程度でした。それから20年かけて温室効果ガスはコンスタントに増加していて、直近の公表数字(2018年平均)では過去最高の408ppmに到達しています。

太陽光発電などのクリーンエネルギーを増やしたり、LED照明など電気の使用量を減らす省エネ機器を導入したり、ありとあらゆる努力をしても、2100年には地球温暖化ガス濃度は700ppmに増え、そのときに地球の平均気温は4.2度上昇するとされています。

2100年などと言うと遠い先すぎてイメージが湧かない方には、最近では「2040年頃には地球の平均気温が2度上昇する」という研究論文が発表されている、と言ったら、もっと現実味が湧くかもしれません。

そしてこの「2度上昇」という水準は、科学者によれば地球環境変化がもう後戻りできなくなる閾値にあたるというのです。

そこで冒頭の話に戻って、グレタさんが何について怒っているのかの話です。気候変動の結果、わたしたちの生活を脅かす5つの災厄が科学的に予測されています。科学者の予測到達年の近い順に見ていきましょう。

次々に現実化している豪雨災害と熱波の予測

2020年時点で既に現実となっている一つ目の予測が、豪雨災害です。昨年の台風15号、19号による東日本での被害が大規模かつ長期にわたったことは記憶に新しいと思います。

特に台風19号は、サファ・シンプソン・スケールでカテゴリー5に分類される本土上陸としては初めてのスーパータイフーンでした。規模としては、05年にアメリカのニューオーリンズ市に壊滅的な被害をもたらした、ハリケーンカトリーナと同等の台風です。

従来はこのようなカテゴリー5が日本に上陸するのはもっと先の未来だと予想されていましたが、昨年、これが現実になったわけです。

さらに2010年代を通じて台風以上に大きな被害をもたらしたのが集中豪雨災害です。この集中豪雨も地球の平均気温が増加するにつれ甚大化することが予測されていた現象ですが、実際の被害状況を見るとその被害は台風以上に甚大です。この災害が2020年代以降もずっと続くのです。

そしてこれかの10年間においては、さらに二つ目、三つ目の気候災害が出現すると予測されています。

二つ目の気候災害とは、熱波です。これは日本ではまだそれほど深刻さを感じていない気候現象かもしれません。日本でニュースになるのは、真夏日で最高気温が全国各地で更新される日に、熱中症で病院に搬送される市民が増えるといった程度の被害報告でした。

しかし地球規模でみると熱波の影響は違います。03年にはヨーロッパを大熱波が襲いました。この年、パリが一番多くの熱波の被害者を出し、フランス国内の犠牲者は実に1.5万人にものぼりました。

19年の夏もフランスでは熱波が襲い1500人もの死者を出しています。地球温暖化を止めるためのパリ協定が結ばれた原動力は、パリが一番の被災地になっていたことが少なからず影響があると私は考えています。

この熱波が20年代にはいよいよ東京や大阪など日本の大都市を襲うようになるというシミュレーション予測があります。

私たちが「真夏日や熱帯夜が多い」といった認識でいると、実はそれは日本を初めて襲う記録的な死者数をともなう熱波災害かもしれない。そのような新しい災害が、これから起きることが予測されているのです。

日本が熱帯化して外来種の害虫が越冬!?

豪雨、熱波に続く三つめの災害が、疫病です。疫病というと、今年中国から世界に広まった新型コロナウイルスを想起される方は多いと思います。新型コロナウイルスも経済的な被害は甚大です。

しかし、地球温暖化が進むと、それとは別に、熱帯性の風土病が、温帯に位置する先進国の都市部に上陸するようになります。

最近、日本にアジア南方に住む害虫が上陸したというニュースが頻繁にもたらされるようになりました。セアカゴケグモやヒアリといった、日本には棲息していなかったタイプの虫たちが、貨物にまぎれて上陸するようになってきたのです。

従来は、そのような悪性の外来生物は、冬を越すことができずに絶滅するものでした。それが近年、冬が温かくなってきたことで越冬するように事情が変わってきたのです。

そうなると怖いのは熱帯の蚊の繁殖です。日本では蚊はただの嫌な害虫だと思われがちですが、グローバルな常識でいえば蚊はもっともたくさんの人類の命を奪っている最悪の生物です。その凶悪さではサメもワニもハイイログマも敵わない。蚊が人間の命を奪う武器は細菌です。

14年に東京の代々木公園でデング熱の感染事件が起きました。15年のジカ熱の世界的流行も不気味な事象でした。日本ではまだ流行するという話は聞きませんが、マラリアも怖い病気です。そういった疫病の不安は、20年代を通じて拡大していくと予測されているのです。

北海道がコシヒカリ、青森県がみかんの産地に

そして、さらに20年くらい先の2040年頃になると、四つ目の災害として世界的な飢饉が危惧されます。それまで作物が育っていた地域の気候が変わり、農作物が育たなくなるからです。

北海道では、本州とは違う寒さに強い品種の米が栽培されていますが、その頃にはコシヒカリの有力な産地へと気候が変化することになります。青森県は今、りんごの産地ですが、このまま気候変動が続くと、やがてみかんの産地に変わることがシミュレーションで予想されています。

「だったら、作物の品種をシフトしていけば大丈夫だろう」――と思うかもしれませんが、そう簡単な話ではありません。

日本国内ではコメの品種変更で乗り切れる事態も、南に下って、例えばメコン川流域など熱帯の穀倉地帯のことを考えたら、それでは済まない事態になります。

日本だって、りんごの木を切り倒してみかんの木を植えたとして、それで何年後から収穫できるのかという問題は起きますし、じゃあ今みかんの産地の都道府県ではいったい何を植えたらいいのか、という問題が起きます。

農業にとっては平均気温の2度上昇への対応はそもそも難しい。その中で、世界的にどこかのタイミングで、70億人の世界人口を食べさせることができないほどの不作の年がいずれ起きると予測されている。これは、かなり怖い未来の現実です。

2040年からは湾岸都市が沈み始める

そして五つ目に、海岸線の上昇です。言い換えると、世界の沿岸都市の水没が2040年頃には確実に起きます。

今でも世界中の海岸線は、少しずつ上昇しています。それを、堤防を高くすることで防げている。このような対策は、20年代までは通用すると考えられています。逆に言えば、20年代の10年間は、海岸線の上昇による被害は主に気象災害時にしか起きないという話です。

これが30年代に入ると、いよいよそれでは済まなくなります。地球温暖化の影響は確実に南極の氷を減らしますから、どうしたって海岸線は上昇することになるのです。

これだけの変化が起きることがわかっているとしたら、今の10代の若者たちにとって自分の人生で一番大切な20代から40代の時代は、気候変動との戦いだけで終わってしまうかもしれない。その意味で、グレタさんが怒る理由は十分にあるのです。

鈴木貴博(経営戦略コンサルタント)
(『THE21オンライン』2020年07月06日 公開)

提供元・THE21オンライン

【関連記事】
仕事のストレス解消方法ランキング1位は?2位は美食、3位は旅行……
日本の証券会社ランキングTOP10 規模がわかる売上高1位は?
人気ゴールドカードのおすすめ比較ランキングTOP10!
つみたてNISA(積立NISA)の口座はどこで開設する?
【初心者向け】ネット証券おすすめランキング