デジタル化の遅れを取り戻す技術「プライバシーテック」

ここまで、プライバシーテックにおいては、そのコアとなる技術である秘密計算を実装できる技術としていくつか存在すること、そしてそれぞれが別々の困難や課題を抱えていることを説明しました。

この事実は、見方を変えると「プライバシーテックは今後の技術の発展とともに目覚ましい進化を遂げることができる技術である」と解釈できると私は考えています。

例えば、将来的にコンピュータの処理速度やメモリサイズといったリソースが増強されたり、またはアルゴリズムそのものが改良されたりすれば、完全準同型暗号のパフォーマンスはどんどん現実的なものになっていくでしょう。

TEEにしても、将来的により質のいい製品が生まれれば効率や安全性が上がるでしょうし、あるいはまだ見ぬ新しい技術が、秘密計算やプライバシーテックにブレイクスルーをもたらしてくれるかもしれません。

同時に、プライバシーテックの理想的な姿に合わせた法律のアップデートも、プライバシーテックの台頭に直結することでしょう。

そのためにも、やはり時代にそぐわないような法律という“壁”は、(もちろん正当な方法で)乗り越えていかなければなりません。

海外で実績を上げた実例を参考にして国内に取り入れ、日本の法律下でも許容されるように政府や国際機関に働きかけて、法律を積極的にアップデートしないと、ほかの技術同様、確実に海外に遅れを取る結果となります。

実際、秘密計算に応用可能な技術であるTEEに関しては、私の研究経験上、すでに海外と比べて著しく遅れています。

業界団体の設立とそのねらい

左から、中村龍矢氏、高橋亮祐氏、今林広樹氏

このような「遅れ」を取り戻し、プライバシーテックを日本において発展させるにはどうすべきか。私が所属するAcompany主導で発足したプライバシーテック協会のような業界団体による活動は、かなり有効なアプローチなのではないかと思います。

そもそも、秘密計算はオープンな技術を利用して実現されていることが多いく、個人的にはかなり「開かれた技術」だと感じています。

もちろん、企業ごとにそれぞれ利益が必要なので、プライバシーテックを発展させていく上で、時には切磋琢磨という形で競合していくこともあるでしょう。

ただでさえIT技術に関しては悪い意味で過度に保守的で、法律もお世辞にも時代に即しているとは言えない、近年の日本社会。

その中でプライバシーテックを普及させていくのであれば「競合の立場であるさまざまな主体が業界団体のような形で協力しつつアップデートを重ねること」が秘密計算・プライバシーテックの風土的にも理にかなっているのではないか、と私は考えています。

<著者プロフィール>

櫻井碧
Acompany研究開発チーム所属

大学院における研究及び2019年度IPA未踏事業において、TEEの1つであるIntel SGXを取り扱った研究に着手し、スーパークリエータ認定を取得。