新しい触覚グローブは「現実に近い触覚刺激」を与えてくれる
従来の触覚グローブには限界があります。
機械的に刺激するタイプは機械自体がかさばるため、ウェアラブル機器などに組み込むと、どうしても刺激の解像度を高めることができません。
また電気的に刺激するタイプは、その多くが高電圧パルス(最大数百ボルト)によって皮膚の神経や受容体を刺激するため、安全性に問題があります。
今回、ヤン氏ら研究チームが開発した触覚グローブは、電気的に刺激するタイプです。
非常に薄く柔軟性があり、圧力・振動・質感(粗さ)など、異なる触覚を忠実に再現できます。
また、新しい電流刺激の方式を採用することで動作電圧が30V未満に抑えられており安全です。
さらに電極がある位置だけでなく、電極と電極の間の位置にも刺激を与えられるようになりました。
これにより、デバイスによる刺激の解像度が3倍以上(刺激ポイントが25から105)になりました。
研究チームは、「4kHzの応答速度と、76ドット/cm2という解像度の高い刺激が可能になった」と報告。
「この刺激の密度は、人間の皮膚の受容体密度に近い」とも述べており、私たちが現実世界で得ている触覚と同レベルの感覚がもたらされることを示唆しています。
では、この新しい触覚グローブによって何ができるのでしょうか?
猫に指先を舐められる「くすぐったい触覚」までも再現可能
新しい触覚グローブはメタバースにリアルな触覚を与えてくれます。
1つ目の実験はVRで行われました。
例えば、VRショップでユーザーが服の質感を感じ取ることに成功。
またユーザーは、VR猫を撫でるときの撫でる方向や速度によって被毛の触り心地が変化することを実感できました。
さらに、VR猫に指先を舐められるときの「くすぐったい感覚」も再現されたようです。
これだけでも多くの人の望みをかなえられますが、実はもっと多彩な応用が可能です。
2つ目の実験では、指先に与えられる刺激だけで文字を当てることに成功しました。
背中に文字を書いて当てる「背文字当てゲーム」の指先版だと言えるでしょう。
このシステムを応用するなら、視覚障がい者が点字を学ばなくても文字や文章を読むことができます。
特に人生の後半で失明した人々にとって、点字ではなく慣れ親しんだアルファベット・ひらがなが使えるというのは大きなメリットです。
3つ目の実験では、分厚い触覚グローブをつけた状態で、現実の細かな作業が行われました。
ここではグローブを付けたまま半径わずか1mm、厚さ0.44mmのワッシャーを素早く見つけることに成功しました。
普通の分厚いグローブをはめただけでは、小さな物体を触っても全く気づきません。
しかし新しい触覚システムを導入するなら、分厚いグローブの表面がとらえた微小な刺激を、グローブ内部の人間の皮膚に正確に伝えられるのです。
これを応用すれば、宇宙飛行士、消防士、ダイバーなど分厚い防護服やグローブを着用して作業する人々の感覚を高めることができるでしょう。
VRに繊細な触覚を与えてくれる新しいグローブは、メタバースの没入感を高めるだけでなく、現実世界のさまざまな分野でも活躍する可能性を秘めています。
参考文献
Research co-led by CityU develops a high-resolution, wearable electrotactile rendering device that virtualizes the sense of touch元論文
Super-resolution wearable electrotactile rendering system