小内 三奈
今年日本上陸10周年を迎えたデンマーク発の雑貨店「フライング タイガー コペンハーゲン」(Zebra Japan 東京都/松山恭子CEO、以下「フライングタイガー」)は、ファンを増やすためにユニークな取り組みを続ける。フライングタイガーファンが集うコミュニティとして「部活」を結成、同社商品をどう楽しむかを伝えるアンバサダー的役割を果たす「ファミリエ」制度をつくるなど、顧客と出会う起点となる場づくりやコミュニティ活動に力を入れているのが特徴だ。同社が目指す「ファンづくり」とはどのようなものなのか。ファンが積極的にコミュニティ活動に参加する理由は何なのか。Zebra Japanマーケティング部の山中伸悟部長と坂牧美紗氏を取材した。
顧客とつながる起点をつくり、ブランドの魅力を広く伝える

フライングタイガーの魅力は、北欧ならではのポップな雑貨が数百円から購入でき、暮らしに彩りを与えてくれる点。雑貨といえば日本では100円ショップ、300円ショップが人気だが、色合いのカラフルさ、おしゃれさという点で一線を画す。また子どもが使えるアイテムやパーティグッズが多いのも特徴だ。
「ブランドを広めるには、商品をどのように使って楽しめるかを含めて伝える必要がある」
こう考える同社が5年以上に渡って取り組むのが、ファンづくりの仕組みだ。イベントに呼び込むなどリアルな場で顧客と出会うことのみならず、コロナ禍で一般化したオンライン上でのつながりも含め、「顧客との出会いの起点」をつくり出すことに注力する。
はじまりは2017年。すでにメディアからの発信だけでは情報の拡散が期待できない時代であると判断し、いわゆるファンマーケティングに取り組みだす。「フライングタイガー」を愛するファンの声をベースにブランドの魅力を伝えていくことを狙って、『アンバサダープログラム』をスタートさせた。
ホームページやSNSで同社公認アンバサダーを募集したところ、パーティ、料理、工作などのジャンルでさまざまな特技をもつメンバーが集まった。フードコーディネーターやアニバーサリープランナーなどの資格をもつ人もいたという。皆、同社商品をこよなく愛する熱狂的なファン達だった。
「こんなイベントやりませんか?だったり、私、講師できます!といった声が次々に上がってきた。実際にさまざまなイベントの講師役を務めていただいたほか、新商品について意見を聞いたり、店舗の装飾を一緒にやっていただいたりと、さまざまな場面でフライングタイガーを盛り上げてくれる大きな存在となった」と、マーケティング部 部長の山中伸悟氏は話す。
以後、ともにブランドを盛り上げてくれるこのアンバサダーの存在は、部長、ファミリエと名称を変えながらも一貫して同社の重要なマーケティング戦略の柱となっている。
「アンバサダーが売上にいくら貢献しているかなどという捉え方はしていない。当社が大切にしているのは、当社商品を使ってどう楽しんでいるかを伝えてもらうこと。アンバサダーには情報を広げる起点となる役割をしていただいており、当社はその情報をどうやって広げていくかという視点で考えながら進めている」(山中氏)
「部活動」の場をつくり、ファンを確実に増やす
より多くの人に同社の商品を使った楽しみ方を伝えていきたいとの想いが強くなり、2018年から新たに取り組んだのが「部活動」だ。好きなことや趣味など、特定の活動を楽しみながらファンがつながっていこうというユニークな活動である。
季節ごとのホームパーティーを楽しむアイデアを交換する「パーティー部」、外遊び商品を使った遊びのアイデアを交換する「あそ部」(翌年からクラフトやビーズなど簡単な手作り作品のアイデアを交換する「クラフト部」へ進化)を立ち上げたところ、登録者数は2000名を超えた。

各部のリーダー役として新たに「部長」を任命し、ときにはワークショップ講師として、ときにはリーダーとして、各部活を盛り上げる存在として活躍してもらうことになった。
「パーティー部であれば、ハロウィン、クリスマスなどのパーティーコーディネートを撮影して投稿してもらっている。それ以外にも、フードの新商品の感想やその商品を使ったオリジナルレシピなども紹介してもらっている」(マーケティング部 坂牧美紗氏)というように、部長自らが個人のInstagramアカウントで積極的に情報を発信している。
アンバサダーや部長に対して特別な特典が与えられることはない。それでも、個人のSNSアカウントを通じて積極的にフライングタイガーの情報を発信してくれるという強力な存在なのである。
同社のInstagramのフォロワーは現在約20万人。「撮影、投稿いただいた写真は、当社の公式アカウントでも発信するほか、宣材として多くのメディアへ発信している。当社のインスタライブで個人アカウントと公式アカウントをつなぎながらパーティーコーディネートの紹介をしたり、父の日や母の日、クリスマスなどのイベントに合わせたワークショップなどを行ったりもしている」(坂牧氏)
メディアへの露出を支援するなど投稿がより多くの人に届くようバックアップすることで、結果的にアンバサダーや部長のフォロワーが増えるなど知名度アップにつながっている。同社を支持する熱烈なファンの自己実現の一部をサポートすることで、両者にとってWin-Winの関係ができているといえる。
先日は、表参道ストアにて、同社スタッフとアンバサダーが協力して店舗の装飾を行ったという。「たくさんの商品を使ってお店を飾りつけしていく作業の楽しさは格別。新商品情報をいち早く得ることができ、仲間との輪が広がって新たなつながりが生まれる点も、ファンの方にとっては魅力ではないだろうか」と坂牧氏は言う。