オオミズナギドリ「俺たちは逃げないよ…」

台風の襲来は、隠れる場所のない外洋でほとんどの時間を過ごす海鳥にとって、死活問題です。

現に台風が去った後、浜辺や陸地のそこここで、海鳥の亡骸が散見されます。

とすれば、海鳥の多くは、台風の襲来に合わせて、どこかに飛び逃げるか、安全な陸地に身を隠しているはず。

ところが、英スウォンジー大学(Swansea University)の最新研究により、日本近海に生息する「オオミズナギドリ」は、通過する”台風の目”に向かってまっすぐ飛んでいくことが判明したのです。

なぜ、彼らはわざわざ危険度の高い台風の中心部に向かっていくのでしょう?

単なる自殺願望のあらわれなのか、それとも、生き延びるための大胆な戦略なのでしょうか?

研究の詳細は、2022年10月11日付けで科学雑誌『PNAS』に掲載されています。

陸地に逃げ込むのではなく、「台風の目」に直進していた!

これまで、ハリケーンや台風の頻発する地域にいる鳥類は、致命的な暴風雨を切り抜けるために、様々な戦略を取っていると考えられてきました。

たとえば、太平洋とインド洋に広く分布する「オオグンカンドリ(学名:Fregata minor)」は、暴風を避けるために、大規模な迂回飛行をすることがわかっています。

それでは、台風によく見舞われる日本近海の海鳥ではどうでしょうか?

研究チームは、新潟県北部の日本海に浮かぶ粟島(あわしま)で営巣する「オオミズナギドリ(学名:Calonectris leucomelas)」を対象に、75羽の翼にGPSタグを取り付け、台風襲来時の行動を追跡しました。

この追跡調査は、すでに11年間にわたって続けられています。

日本近海を飛行する「オオミズナギドリ」
Credit: YUSUKE GOTO – Swansea University(2022)

11年間のデータ分析の結果、台風接近時に外洋にいたオオミズナギドリの大半は、台風から逃げるのではなく、台風の外縁を吹き回る「追い風」に乗ることを発見しました。

さらに、接近時にすでに、”台風の目”のコースと背後の陸地に挟まれていたオオミズナギドリは、外縁に留まるどころか、追い風に乗って危険度の高い”台風の目”の方向に直進していったのです。

こちらは、2018年8月に発生した台風・シマロン(Cimaron)が、日本海を通過したときのオオミズナギドリの飛行データです。

黒線が”台風の目”の移動コースを、赤や緑の線がオオミズナギドリの飛行コースを示しています。

台風の目(黒)と飛行コース(赤や緑)の変化
Credit: E. LEMPIDAKIS et al., PNAS(2022)

先ほど説明したように、多くの個体は、台風の外縁部に留まっていましたが(なぜか、東北の方に飛んでいった個体もいますが)、うち3羽は”台風の目”に向かっているのがわかります。

チームによると、この3羽は、台風の中心部から60キロ圏内の風が最も強いエリアで、最長8時間にわたり追い風に乗って北上する台風についていったという。

研究主任のエミリー・シェパード(Emily Shepard)氏は「最初、自分たちが見ているGPSデータが信じられませんでした」と驚きを露わにしています。

中には、時速75キロという猛烈な風を受けているものもいました。

こうした行動は、他の海鳥では報告されていません

なぜオオミズナギドリは、暴風吹き荒れる”台風の目”に向かっていったのでしょうか?