近年は、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の影響により働き方改革が進み、私たちの働き方や働く場所は大きく変化しました。

コロナ前までは、大半のビジネスパーソンにとってはオフィスに出社することが当たり前でしたが、今ではリモートワークが珍しいものではなくなりました。

こうした社会情勢の変化のなかで、「働く場所」に関する世間の興味関心が一気に高まったことが、一番の変化だったと思います。

今回は、これまでワークプレイスのプロフェッショナルとして、オフィス仲介業、オフィス内装業、オフィス家具EC業などを展開してきた47ホールディングス株式会社の阿久根聡氏に、「働く場所」についてご寄稿いただきました。

コロナ前、スタートアップにとってオフィス拡張は「成長の証」だった

コロナ前、スタートアップにとってオフィスの拡張移転は「成長の証」でした。人員を増やし、資金調達をして、オフィスを大きくしていくという“企業の成長”を示す指標として、オフィスの拡張移転は最も分かりやすい例だったのかもしれません。

しかし、当時は空室率が極端に低く、賃料が高騰していました。2019年末時点の東京23区の空室率は、なんと1%未満。需要(借手)が多く、供給(空室)が少ないほど貸手市場になり、賃料は上がる一方でした。

空室が少なく賃料が高いということから、「空きが出てもすぐに埋まってしまう」「移転したくてもなかなか移転できない」という企業が多い状況でした。

2020年以降、働き方が激変。「オフィス不要論」が囁かれる事態に

こうした状況が一変したきっかけが、2020年から始まったコロナの流行でした。1回目の緊急事態宣言が発令された頃から、スタートアップのオフィス解約や縮小移転が相次ぎ、「オフィス不要論」がまことしやかに囁かれるようになったのです。

スタートアップのオフィス解約が相次いだ理由の1つは、働き方の変化です。リモートワークの導入により、従来のオフィス面積が不要だと判断した企業を中心に、オフィスを縮小する動きが加速しました。中には、全従業員をフルリモートに移行し、完全にオフィスを解約した企業もあります。

もう1つの理由は、企業の業績悪化による固定費削減の流れです。観光業やエンタメ業など、外出自粛の影響により打撃を受けた業界は、先行きが見えない中で固定費の削減を迫られました。

固定費の中で特に大きな割合を占めているのが、オフィス賃料です。前述した働き方の変化に伴い、リモートワークを導入しても業務を続けられる企業は、オフィスを縮小・解約していきました。

こうした流れを受けて、オフィスの空室率は一気に上昇。2019年末は1%未満でしたが、1年後の2020年末には倍の2%弱、2年後の2021年末には3.5%強にまで上がりました。現在は、空室が増えたことによってビルオーナーが賃料の引き下げを検討し始め、賃料相場が緩やかに下がってきている状況です。

ただ、ビルオーナーにとって家賃は重要な収入源であることから、すぐに賃料の引き下げに踏み切ることが難しいといいます。あくまでも、空室率の変化に追従する形で緩やかに低下しているのが現状です。