「生臭さ」の元となる「うま味」成分が圧力の「ガス抜き」をしている
魚のうま味成分であり、臭みの元である成分は、どうやって水分子ネットワークの歪みを是正しているのか?
謎を解明するため研究者たちは、中性子ビームを照射することで低圧環境(25bar)と高圧環境(4kbar)における水分子の配置を測定することにしました。
すると高圧環境にある純水では水分子同士の水素結合が歪んで安定性が低下し、水分子ネットワークが圧縮されていることがわかりました。
しかし純粋にTMAOを加えた場合を計算モデルでシミュレーションすると、水分子ネットワークの歪みが解消していることが判明。
また原因を分析すると、TMAOに含まれる酸素部分と水分子の水素部分と強い水素結合を形成することで一種の「圧力のガス抜き」が行われており、周囲の水分子の圧縮性が低くなっていることが示されました。
さらに計算により、魚の体内でTMAOの濃度が1mol/kg増えるごとに1.3±0.3kbarの圧力に耐えれるようになることが示されました。
そして重要なことに、この比率は、実際の魚が生息する深さと体内に含まれるTMAOの濃度とを比較したグラフと一致するものでした。
この結果から研究者たちは、海洋生物が特定の深さで生き残るために細胞内部に必要なTMAOレベルを予測する比率表が開発できたと述べています。
水圧とそれに伴う水分子ネットワークの歪みは地殻内部に海を持つとされるエンケラドゥスなどの衛星においても発生していると考えられており、もしかしたらTMAO分子と似た性質を持つ有機分子の存在は、地球外生命探査においても、有効な指標になるかもしれません。
参考文献
How fish survive extreme pressures of ocean life元論文
The ability of trimethylamine N-oxide to resist pressure induced perturbations to water structure