魚料理が大好きな人でも、魚には独特の生臭さが存在することは否定できません。

サンマ・イワシ・カレイなど海から水揚げされる魚は実に多様であり、魚ごとの生態や獲れる時期も大きく違うはずなのですが、不思議なことに同じような臭みが感じられます。

英国のリーズ大学(University of Leeds)で行われた研究によれば、この臭みの大本となる成分が、水圧によって生じる水分子ネットワークの歪みを正し、水が生命活動が起こる場として機能し続けるように支えていることが示されました。

どうやら魚臭さの背後には、生命の基礎「水」を巡る、思いもよらない神秘が隠れていたようです。

以下の記事では「魚臭さ」「水分子ネットワーク」「生命活動」をキーワードにして研究内容を解説したいと思います。

研究内容の詳細は2022年9月28日に『Communicarions Chemistry』にて公開されています。

水分子ネットワーク構造の歪みは水を毒にする

水分子ネットワーク構造の歪みは水を毒にする
Credit:Canva

私たち地球に生きる生命にとって、水は必須の存在です。

水の高い溶解能力はさまざまな化学物質をとけこませ、生命活動に必須な化学反応が起こる場を提供してくれます。

また水は常温常圧の環境では最も比熱が高い物質であるため、生命体に起こる温度変化を最小限に抑えてくれます。

さらに水は分子同士の結合力が高いために、分子同士がまとまる力「表面張力」が水銀に次いで高く、蒸発させようとしても多くの熱(気化熱)が必要になります。

まとまる力の強さは適度な粘性を与え、容易に失われない蒸発しにくい性質も生命体にとっては有利に働きます。

科学の雑学を扱った本などでは「水は極めて変な物質である」といった表記がよくみられますが、その全ての「変」な部分が生命にとって都合がいい性質となっているのです。

しかし、そんな水も時には毒となることがあります。

常温常圧において水分子たちは通常、お互いの酸素部分と水素部分が引き合うことで、4面体のような緩やかなネットワーク構造を形成しています。

しかしマリアナ海溝などの高い水圧がかかる環境では水分子のネットワークが圧力で歪むことが知られていました。

(※マリアナ海溝の最深部は海面から11キロメートルもあり、水圧は1.1kbar、この値は海面部分でかかる1100倍に及び、1平方センチあたり8トンにも及びます)

水圧による水分子のネットワーク構造の歪みは、生命活動の場としての性質の歪みにつながり、生物たちの生化学的プロセスを止めて殺してしまいます。

極限水圧で生きている魚(シンカイクサウオ)が発見された
Credit:Pseudoliparis swirei sp. Nov.: A newly-discovered hadal snailfish (Scorpaeniformes: Liparidae) from the Mariana Trench

ですが一部の深海魚たちは、水深8000メートルでも生息していることが知られていました。

これまでの研究では、深海魚たちは魚のうま味成分として知られる「トリメチルアミンオキサイド:TMAO」と呼ばれる分子を生成することで、水圧に対する保護効果を得ていると考えられていました。

実際、海の深い部分に住む魚ほど体の中にTMAOを多く含むことが報告されています。

(※イカなどの体にもTMAOが含まれています)

またこの、TMAOは魚が水揚げされて死ぬと微生物による分解がはじまり、トリメチルアミン(TMA)と呼ばれる魚独特の臭み成分に変化します。

海に住む多種多様な魚たちに、同じような臭みを感じるのも、どの魚もある程度の水圧対策としてTMAOを体の中に蓄えているからだったのです。

しかし、TMAOがどのようにして水分子のネットワーク構造の歪みに対抗しているかは、大きな謎とされてきました。

そこで今回、リード大学の研究者たちは、水分子ネットワークの歪みにTOMAの存在がどのように影響するかを調べる、世界初の試みに挑みました。