副業「解禁」から副業「活用」へ―副業2.0

次に、働き方のボーダレス化をある意味で象徴する存在として「副業」に関するここ数年の動きを振り返ってみましょう。

先に述べたように、働き方改革の流れの中で2018年は「副業元年」と言われ、銀行のような伝統的な産業も含めて大手の副業解禁が続き、副業・兼業を推奨する形のモデル就業規則改訂も実施されました。

しかし、振り返ってみると、「個人が副業をすることを許容する」という供給側の変化があった一方で、「副業する個人と仕事をする」需要側が追い付いていなかったため、副業市場はそこまで広がりませんでした。

ランサーズ社が実施する「フリーランス実態調査2021-2022」の結果をみても、副業・兼業を含む広義のフリーランス人口は、2018年まで上昇基調だったところが、2019-2020年にかけて減少しています。

(フリーランス実態調査のフリーランス人口の推移/出典元:ランサーズ株式会社)

これは、「副業解禁」のムーブメントの中で副業を始めてみた人たちが、需要の不足や副業先とのミスマッチにより、短期間で離脱してしまったことが原因だったと私は考えています。

そうした中で、2020年頃から起こり始めたのが、需要側における副業「活用」の動きです。

例えばライオンや三菱地所などの大企業が、副業人材を積極的に活用する動きを同時期に見せ始めました。背景としてあるのは「副業の目的の変化」そして「副業人材の質の変化」だと考えています。

「副業元年」と謳われた2018年当時は、副業人材の需要・案件も少ない中で、社会において「副業=お小遣い稼ぎ」というイメージが強かったように思います。いわば副業1.0の時代です。

そこから副業の案件の質も徐々に変わっていく中で、副業にチャレンジするプロフェッショナル人材も増え、「副業=自己成長の機会」と捉える気運が出始めました。いわば副業2.0の時代です。

副業はそれまでアフィリエイターやクリエイターなど一部の職種に限られていましたが、より一般的なビジネスパーソンを含めて、本当の意味で副業が広がっていくのはこれからになるでしょう。

フリーランスとは?未来の「働き方の見本市」

では、労働市場において人材の流動性が高まり、企業における副業の解禁や活用も広がってきた中で、フリーランスの働き方はどう変わってきたのでしょうか?

ランサーズでは、Lancer of the Year(以下「LOY」と略す)という大規模なフリーランスのアワード・表彰イベントを2015年に開始し、毎年開催してきました。

Lancer of the Year2022の様子

企業という緩衝材なしに、常に市場に直接向き合っているフリーランス。そのモデルケースとなる受賞者が集まる同イベントは、いわば「未来の働き方の見本市」のような場にもなっています。

ランサーズで直近行った調査結果(※リンク)から読み取れるマクロな動向とあわせて、LOYの表彰者たちのミクロな個別事例をみていると、いくつかのトレンドが浮かび上がってきます。


出典元:ランサーズ株式会社

まず、ビジネス領域のフリーランスは、ますます増えていくでしょう。例えば今年のLOYでもセールス職のフリーランスが表彰されましたが、ジョブ型が進み人材の流動性が高まる中で、このトレンドは今後も続くと考えられます。

また、新たな職種がどんどん生まれていくでしょう。10年前にYouTube動画編集の職はほぼ存在しなかったわけですが、例えばメタバースビジネスが広がっていけば、3Dモデリングを生業とするフリーランスは増加していくでしょう。

そして、事業性を帯びたフリーランスの動きにも注目したいと思います。企業と個人の関係がフラットになる中で、仕事を受注しつつ発注側にもまわるなど、「プロシューマー」的(プロフェッショナルとコンシュマーを組み合わせた)存在は今後多くなっていくでしょう。

 

冒頭に述べた「フリーランス的」な考え方は、変化の速い不確実な現代をより長く生きる個人にとっても、企業が個人との関係性を築いていくうえでも、より重要となっていく価値観だと考えています。

あらためて、働くとは、自分らしさと社会との接点だと思います。それを常に意識しチャレンジしている「フリーランス的」な存在の広がりと変化に、ぜひ今後も注目していきたいと考えています。

執筆者プロフィール

ランサーズ株式会社 取締役 執行役員COO
曽根 秀晶

2007年よりマッキンゼー・アンド・カンパニーで、コンサルタントとして主に小売・ハイテク業界の大手クライアントの経営課題を解決するプロジェクトに従事。2010年より楽天株式会社において、「楽天市場」の営業・事業戦略を担当後、海外デジタルコンテンツ事業のM&A・PMIを推進、グループ全体の経営戦略・経営企画をリード。2015年2月、当社に参画し、2015年11月より取締役に就任。著書に「強い組織をつくる オンライン時代の戦略的リモート・マネジメント」がある。