(本記事は、西田 健の著書『コイツらのゼニ儲け2 無慈悲で、ヤクザで、めっちゃ怖い』秀和システムの中から一部を抜粋・編集しています)

サムスン電子

経産省に「倍返し」の報復を受けた韓国の富の半分を支配するガリバー企業

かつて野村克也さんは「南海の野村ではなく野村の南海だ」とおっしゃいましたが、この傲慢ともいえる台詞を言えるのがサムスンですね。OECD(経済協力開発機構)において、国富の半分を牛耳る企業を持っているのは韓国ぐらいでしょう。あと、ホワイト国外しの問題にしても、他の先進国は韓国を認定していなかったわけで、日本にすれば「他の国が認定すれば戻す」というだけでケリがつきます。そうははっきりと言わないいやらしさが日本の官僚っぽいですよね。

サムスン電子
【沿革】
1938年、日本統治時代の米輸出代理店から出発、三菱にあやかって「三星(スムスン)」を名乗った。83年、日本の通産省の全面支援で半導体産業へ参入、ホワイト国入りした2004年以降、業績を大きく伸ばし、17年には半導体企業世界一になった。韓国ナンバー1企業。
【特徴】
カリスマ経営者の李健熙(イ・ゴンヒ)会長のトップダウンによる迅速な経営方針の決定と集中的な投資で家電部門、半導体部門で日本企業を世界市場から駆逐、韓国人から「民族の誇り」と評価される企業。サムスングループの資産は韓国の国富の半分に至り、2014年、李会長が倒れたあと、長男の李在鎔(イ・ジェヨン)副会長が実質的なトップとして君臨してきた。17年、朴槿恵(パク・クネ)政権下での崔順実(チェ・スンシル)ゲート事件で逮捕、18年有罪確定、執行猶予で釈放中。この(2019年)9月、再起訴という情報も。
【金儲け】
ホワイト国特権を利用して日本から最先端の製造機械と戦略物資をフルに使い、日本より安価で高品質な製品を世界に輸出、業績を伸ばしてきた。17年度の年間売上げは24兆円、世界企業ランクで12位。半導体では韓国の貿易黒字の8割を叩き出す。

韓国の半分がサムスン

(画像=PIXTA,ZUU online libraryより引用)

 

「戦争前夜」の様相を呈してきました。もちろん悪化し続ける日韓関係のことでございます。そのきっかけとなったのが2019年7月1日、突如、経産省が発表した「輸出管理強化」でしょう。この直前、大阪のG20で文在寅大統領と顔合わせしておきながら「知らんぷり」。帰国したとたん、だまし討ちのように発表するえげつなさでしたね。

それだけに韓国内で激烈なボイコット運動が起こり、果ては8月23日、GSOMIA(軍事情報包括保護協定)まで破棄してしまったのは、この輸出管理強化が「韓国半導体産業潰し」を意図しているからなんですよ(韓国はアメリカの圧力で破棄直前に白紙撤回)。

韓国にとって半導体、正確には、その半導体で世界トップシェアを持つサムスン電子の存在は特別なものがあります。半導体産業は、もともと戦後日本のお家芸で、世界を席巻してきました。そこに挑んだのがサムスン電子でして、1980年代半ばから本格参入するや、わずか20年で日本企業を市場から叩き出し、2017年にはアメリカのTI(テキサスインスツルメンツ)を抜いて、世界シェア3割を握る企業へと躍り出ました。

実際、サムスングループの年間売上は30兆円を軽く超えていまして、グループの中核サムスン電子は年間24兆円(2017年度)、世界企業ランクで12位までジャンプアップ、6位のトヨタ(26兆円)を猛追しております。なによりサムスン電子の半導体部門って、韓国の年間貿易黒字6兆円のうち8割に至り、韓国の国富の半分を占めています。いわば、韓国の半分は大げさではなく「サムスン」でできているんですね。

はい、そこで今回の輸出管理です。管理強化となった三品目(フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素)は、いずれも半導体製造に欠かせない重要商材。これを経産省は「軍事転用できる戦略物資だから」と90日の厳しい書類審査をパスしなければ輸出できなくしちゃったわけです。それまで韓国は、いわゆる「ホワイト国」として書類1枚を出せば、好きなだけ日本の戦略物資を輸入することができました。そのホワイト国からも、9月から除外することを決定しています。

日本側は「韓国側に管理の問題がある」「ほかのアジアの国同様に個別審査を行なうだけ」と言ってますけど、そんなおためごかし。目的は経産省によるサムスン電子潰し、イコール韓国経済潰しです。韓国側がぶち切れるのは、当然といえば当然なんです。

サムスン電子とエルピーダメモリ

(画像=Getty Images,ZUU online libraryより引用)

 

さて、今回の管理強化の騒動で、多くの人が日本の半導体産業の裾野の広さに驚いたのではないでしょうか。問題となったフッ化水素なんて「ナイントゥエルブ(小数点以下12桁の純度の意味)」というレベルの商品を平然と作っているんですから。日系半導体メーカーはボロボロなのに、なぜ、関連産業が強いのかといいますと、戦後の日本経済が「エレキ」、正確にいえば電子産業に異常なまでに力を入れてきたからですね。

敗戦後、当時の通産省は、日本産業の未来像に「エレキ」を据えます。戦時中、日本の開発力そのものは欧米列強に比べて劣っていませんでしたが、致命的なまでに電子部門と素材部門、それに品質管理の面が遅れていまして、欧米製の兵器に太刀打ちできませんでした。その反省を踏まえ、戦後の日本は戦時に判明した弱点を補うよう産業育成を行ないます。このへんは城山三郎の名著『官僚たちの夏』(新潮文庫)に詳しく載っています。

ともあれ、まともなレーダーを作れなかったこともあり、電子分野はとくに力を入れてきまして、ソニーのトランジスタの国産化にはじまり、ICチップ、いまのメモリチップなど官民挙げて業界を育ててきたわけですよ。先の高純度フッ化水素が日本でしか作れないのも、1960年代から実に60年、コツコツと開発してきたもの。おいそれと他国がマネできるシロモノじゃないんですね。

そんな日本の半導体産業が落ちぶれたのは、ちょっと「やりすぎた」からです。あっという間に日本が半導体産業を牛耳ったことでアメリカが激怒、日米貿易摩擦へと発展してしまい、日本はアメリカの要請で、国内での半導体製造の制限を受け入れます。結果、友好関係にあったアジア諸国に半導体産業を移転させていくことになりました。

はい、それがサムスン電子なんですよ。

サムスン電子を半導体企業として成長させようと、当時の通産省と日系メーカーは、惜しみなく技術を移転し、その成長を促してきました。まあ、強力なライバル企業を作ったわけで、当然日系企業は追い詰められます。そのため他方で、通産省は日本の半導体を守るべく、1999年、日立とNEC、三菱電機の半導体部門を合併させて「エルピーダメモリ」を設立します。日本の半導体技術を守る「シェルター」を作ったわけですね。

つまり、サムスン電子とエルピーダメモリは、通産省が主導した「兄弟会社」ということがわかるでしょう。だからこそ日本=通産省はサムスン電子を徹底的に優遇、日本企業同様に扱ってきました。

実際、2004年には経産省が主導して、今回、問題となったホワイト国認定まで手助けします。韓国を「日本国内」と同じ扱いにする制度で、これがサムスン電子躍進の最大の理由となります。

なぜならライバルとなる台湾企業、のちに中国企業は、日本から戦略物資を輸入するには、いちいち書類審査を受ける必要があり、必要な物資は多めに購入します。半導体は需要と供給サイクルの変動が激しい産業なので、需要が伸びて増産しようにも日本製フッ化水素が足りないとか、逆に余って赤字になったりするわけですよ。

その点、日本国内の扱いを受けるサムスン電子なら、「必要なとき、必要なだけ、必要なもの」というジャストインタイムができます。しかも日本より人件費も安く、また韓国は電気をバカ食いする半導体産業のために、電力を安くする国策も行なっています。これだけメリットがあれば投資だってバンバン集まります。こうしてホワイト国入りした2004年以降、急激な成長カーブを描いて世界一の半導体企業となっていくわけです。

逆にホワイト国リストから外せば、簡単にサムスン電子のビジネスモデルは崩壊します。というより韓国の輸出産業自体がホワイト国を前提に設計されていますから、除外すれば、韓国輸出産業は即座に崩壊しちゃうぐらいです。

にもかかわらず、というか、それを誰よりも知っておきながら、今回、経産省は平然と輸出管理強化とホワイト国除外を決めちゃったんですよ。ボイコットデモをする韓国より、今回の経産省のほうが、はるかに「狂気の行動」といえます。

どうして、ここまでやったのか。

それがエルピーダメモリの破綻ではないか、というのが今回のテーマなんです。経産省が主導した日本半導体メーカーの〝シェルター〟であるエルピーダメモリは、2012年に破綻、今ではアメリカのマイクロン社に吸収されてしまいました。このとき、1950年代から官民挙げて育成してきた半導体産業は終わったといっていいでしょう。

問題はエルピーダの破綻までの状況です。あまりにもきな臭いんです。

倒産間際、業績悪化に喘いでいたエルピーダメモリを救うべく、経産省の役人たちは走り回っていました。その中心人物が、当時の経産省審議官の木村雅昭氏。彼はエルピーダを残すべく米マイクロン社のスティーブン・アップルトンCEO(当時)と協議を進め、対等合併の合意を得ます。ところがその直後の2012年1月、木村氏はインサイダー容疑で東京地検に逮捕、カウンターパートナーだったアップルトンCEOは謎の飛行機事故で死亡。合併プランは白紙に戻され、エルピーダは破綻します。

そのとき、エルピーダ破綻の「真犯人」として疑われたのが、そう、サムスン電子なんです。

マイクロンとエルピーダ連合はサムスン電子より強力な存在になりますし、むしろ破綻させてサムスン電子がエルピーダを買い叩こうとしたのでは、と疑われてしまったわけですね。ことの真偽は別にしても、エルピーダの業績悪化は、サムスン電子が仕掛けた安売り攻勢であり、兄弟企業として手を差し伸べるどころか、トドメを刺しにきていたのは事実です。それだけに破綻した日、経産省では、「やられたらやり返す、倍返しだ!」と、池井戸潤小説みたいな台詞が飛び交ったともいいます。

これが冗談に聞こえないのは、今回の輸出管理強化とホワイト国外しのタイミングが実にいやらしい点にあります。

この6月、文在寅政権は金尚祖という人物を大統領府政策室長、経済政策のトップに据えるんですが、この人、サムスンの実質トップである李在鎔副会長を逮捕するなど、「李一族は滅ぶべし」「サムスンの資産は国富に戻すべし」がポリシーの「サムスン絶対殺すマン」の異名を持つ御仁。実際、この9月にも李副会長の再逮捕を決めたといわれ、今回の管理強化、ホワイト国外しと相まって、サムスン電子は相当、追い詰められているんですよ。2019年8月22日にはトランプ大統領も「アップルのためにサムスンの対米輸出に大幅な関税をかける」と息まいていますし。

このサムスン電子包囲網のヤバさは、日本が世界に誇るあの〝ハゲタカ〟が飛び回っていることからも理解できるでしょう。はい、ソフトバンクの孫正義さんですね。

先の輸出強化が発表になるや、7月4日に即座に韓国大統領府(青瓦台)を訪問、7月7日、李副会長を日本に招くなど、実に怪しげな動きを見せています。孫さんは、2016年、3.3兆円でイギリスARM社を買収していますが、このARM社は半導体チップの設計では世界一といわれる優良企業。この製造部門としてサムスン電子を狙っているっぽいんですよ。

安倍政権は「安全保障上の問題であり、報復や制裁ではない」とか言い張っていますけど、これって完全な「韓国潰し」。そしてハゲタカが火事場泥棒、そんな構図が見えてくるのです。(2019年10月号)

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(画像=ZUU online libraryより引用)

 

西田 健(にしだ・けん)
1968年広島県生まれ。下関市立大学卒業後、男性週刊誌の記者や『噂の真相』などを経てフリーライターに。書籍、雑誌を中心に活動する。
現在、『紙の爆弾』(鹿砦社)で「コイツらのゼニ儲け」を連載中。

提供元・ZUU online library

 

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