百貨店業界において、非商業部門のポートフォリオ拡大による経営安定化の一環として不動産事業に注力する動きがみられる。オフィスビルやコワーキングスペースなどの開発はその一例だ。その中で、大手百貨店グループでいち早く住宅開発に乗り出したのがJ.フロント リテイリング(東京都/好本達也社長)だ。現在、名古屋、横浜など大都市圏で、保有不動産を活用した3件のマンション開発プロジェクトが進行している。同グループにとってはまったくの未知といえる住宅事業。どのようにノウハウを獲得し、住宅開発や管理運営を手がけようとしているのか? 本業とのシナジーはあるのだろうか? 「百貨店発・住宅事業」の最前線を追った。

名古屋・横浜・京都で進む住宅開発

J.フロント リテイリングがマンション開発!住宅事業は百貨店の新たな経営の柱となるか
(画像=横浜物件の外観パース、『DCSオンライン』より引用)

名古屋市中区千代田。中心街・栄に地下鉄で約6分という好アクセスの地区で、大規模賃貸マンションの開発プロジェクトが進行している。プロジェクトを主導するのはJ.フロント リテイリンググループのパルコ(東京都/牧山浩三社長)。1Kから3LDKまで豊富なバリエーションを揃えた205戸のマンションは、2023年9月の入居開始を予定している。

この名古屋市の物件に加え、同グループでは横浜市中区でも賃貸マンションの開発プロジェクトが進行中だ。関内駅から徒歩圏内のエリアで、横浜みなとみらい地区に通勤する若年層の単身者やDINKS (共働きで子供のいない夫婦)の入居を見込む。さらに、京都エリアでもアッパークラスを想定した分譲マンションを計画中だ。

「初めから住宅事業に乗り出そう、と決めていたわけではない。保有不動産の価値を最大化できる用途を検討した結果、商業よりも住宅のほうが周辺エリアのニーズに合致し、周辺のまちづくりにも寄与できると判断した」。J.フロントリテイリング 執行役経営戦略統括部CRE企画部長を兼務するパルコ不動産戦略グループ担当執行役員の平井裕二氏は、住宅事業に参入した理由をこう語る。

SC開発ノウハウを持つパルコに不動産事業を一元化

J.フロント リテイリングがマンション開発!住宅事業は百貨店の新たな経営の柱となるか
(画像=名古屋物件の外観パース、『DCSオンライン』より引用)

名古屋のマンション建設予定地は、もともとJ.フロント リテイリンググループのJ.フロント建装が保有する土地だった。横浜市のマンションもかつて横浜松坂屋の事務所があった土地で、コインパーキングなどに暫定利用していた。

同グループが、これらの保有不動産を活用した住宅事業へと大きく舵を切ったきっかけは、2020年9月。グループの不動産事業をパルコに一元化し、保有不動産を同社に移管した。2021年に発表した同グループの中期経営計画では、デベロッパー戦略を重点戦略の一つに位置づけた。「パルコには、ショッピングセンター(SC)の開発・管理運営の実績とノウハウがある。そこにグループの保有不動産を集約することで不動産の価値最大化を図るねらいがある」(平井氏)

パルコ内の不動産戦略グループは、アセットソリューション部、開発部、建築部と、業務ごとに3部門に再編し、不動産事業の強化に向け体制を整えた。