自社製品名にも現れるクルマ愛
オーナーに声をかけてみようと思いたった。ただし、慎重に見極める必要がある。広告スポンサーが提供した車両に、ただ乗っているゲストの場合があるからだ。近年はさらなる注意が必要である。ドイツを中心に、参加認証済みヒストリックカーとセットのミッレミリア体験パッケージが一部業者によって販売されているためだ。したがって声をかけてみると、長年の愛車ではなく、いわば“レンタカー”だった、ということがある。
そうした中、明らかにオーナーと愛車の雰囲気を漂わせている356を発見した。詳しくいうと、1956年356A 1600である。オーナーのルイージ・ビゴローニさんに住まいを聞くと、「ブレシアです」と誇らしげな答えが返ってきた。ミッレミリア発祥の地である。
今回のルート中最も辛かったのは「初日」という。理由を聞けば「車の量が多かったからです」とビゴローニさんは教えてくれた。かつてコ・ドライバーとしてミッレミリアに参加した筆者の経験からしても、初日はまだクルマ、ドライバーとも皆元気なので、車両間の速度差が少ない。ゆえに前後のクルマとともに走ることが多い。
“356の美点は?”との質問に、「他の車がどんどん脱落するような状況下でもトラブルフリーであること。悠々と走れます」と答える。
彼にとってポルシェ車との出会いは、24年前の1998年だったという。「993型、つまり最後の空冷911でした。以来今日まで4台のポルシェをガレージに収めてきました」。
“あなたにとってポルシェとは?” ビゴローニさんは「高いステイタス、スピード、スポーティーな操縦感覚、信頼性……」といったワードを挙げたあと、こう付け加えた。「永遠の若さです」。
若返り効果は十分あるようだ。ルイージさん、ミッレミリア参加は、なんと今回で6回目であることを明かしてくれた。
家に戻ってから、もらった名刺を頼りにインターネットで調べてみると、ビゴローニさんは、住宅などのドアハンドル(取っ手)を手掛けるメーカー「マニタル」のオーナー社長だった。356ファーラー(パイロット)は、その輝かしい週末の姿だったのである。
公式ウェブサイトによると、マニタル社は1990年の創業から、著名工業デザイナーとのコラボレーションによるモダンデザインの真鍮製ドアハンドルを得意としてきた。2007年にはイタリア工業連盟によって「アワーズ・オブ・エクセレンス」のメイド・イン・イタリー功労賞に選ばれ、著名デザイン賞である「レッドドット・デザインアワード」もたびたび受賞している。また、世界各地の有名高級ホテルのインテリアにも採用されている。
そのサイトの沿革欄に面白いものを発見した。絶版商品らしく残念ながら写真は出てないが、「ル・マン」「デイトナ」といった商品名が綴られている。いずれも24時間レースにおいてポルシェが活躍した舞台だ。創業僅か4年目の1994年のプロダクトである。クルマに対する情熱が伝わってくる。
今回の結果は148位。97台もがリタイアを喫した(完走343台)のだから、まずまずの健闘といえる。ビゴローニさんが7回目のミッレミリアに参加したら、我が家の前で大きく手を振って歓迎することにしよう。
(文と写真 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)
提供元・8speed.net
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